助け舟の連携


 「ハイそこのお姉さん、バックドール商会が誇る新開発魔道具は如何です⁉」

 如何にもな営業向けスマイルを顔に貼り付けた青年商人が町を歩いていた女に迫る・・

 近寄る、ではなく、わざとらしい笑顔を貼り付けて逃げられない様に、相手が建物の壁を背にする様に追い込んで、迫る・・

 「いや、あまり資金的に余裕が無いのでチョット遠慮を……」

 引き攣った愛想笑いを浮かべ、壁と青年の間をすり抜ける様に逃げようとしたが……

 「遠慮なんかしなくて良いですよ!はい見て見て、寒い日でも快適!3年保証!水を入れて、専用の装置を自宅の竈や暖炉の中に入れて火を燃やすだけで使える温水床!今日だけ・・!これが今だけ3割引きで販売しているんです!限定で入手困難!さぁ、如何です⁉」

 どっこい逃げられなかった。遠慮という言葉を敢えて拒絶の意思表示と捉えずに、すり抜けようと女が移動した先に回り込み、懐から取り出した商品を目の前に突き付けて更に迫る。

 「いや……でも……」

 一歩退けば二歩迫ってくる状況。周囲が助ける気配は無い、というか、助けるに助けられない。

 止めようとしたら最後。今度はこちらが標的にされると皆確信している。この男は先日からこの町で商売を始め、似たような事があった。その時、助け舟を出した人間がどうなったか?

 被害者が一人から二人に増えるだけだった。止めようとした人間にも押し売りをして、余計面倒な事になった。

 勿論、今回売る側はその辺を計算ずくで露骨に大きな声で売り、注目を浴び、助けが来なければゴリ押し、来たら二人に売りつけようとしている訳だが……。

 最早これまでか……。そう思った時に助けは現れた。

 「そこまでにしてやんな。相手が困ってるだろう?」

 「お嬢さん、大丈夫ですかい?」

 いつの間にか背後に立っていた赤毛の女が商人の肩を掴んで強制的に一歩退かせた。

 そして赤毛の女が作り出した商人と女の間の一歩分の空間に横から大男が一人割り込み、商人と女を完全に隔てる。

 この間一秒足らず。同じ人間が別の体を動かしたかの様に無駄が無く、入り込む隙の無い動き。

 「あの、邪魔をしないで貰えます?こちとら商売してるんです。あなた達は関係ないでしょう?引っ込んで貰えますか?」

 言葉遣いは荒くないが、押し売り相手が大男の体で見えないのを良い事に一段声のトーンが落ち、表情は作られた安い営業スマイルから冷めた刺々しい視線に変わる。

 「商売は商売でも阿漕な商売じゃないか。それにお客さん、困ってたろう?

 止めるさね。アンタの為じゃなく、そこの人の為と、同じ商人としての私らの矜持を守る為にね。」

 モラン商会、スカーリ・デカンが助け舟として現れた。


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