罪悪感の鏡
「これ以上、邪魔をする事は構いません。
ただ、その時は自分の手を汚して下さい。その時は正面から叩き潰して差し上げます。
もし、これ以上オーイさんを使って卑怯な真似をするのであれば、その時は貴方達全てが私の敵になりますので、そのつもりで。それでは、失礼致しました。」
頭を下げたままの村翁を無視して背を向ける。
「あぁ、ただ、今回はオーイさんの行動あって、結果的には何事も無かったので、私はこのまま校外課題を全うするつもりです。貴方の行動を許しはしませんが、それはそれですので、
それでは今度こそ本当に、失礼致しました。」
これ以上何を言っても無駄だとばかりにそれだけを言ってシェリー君は孫娘を連れて長の家から出て行った。
村翁は土下座のまま、震えていた。
村翁は希望が欲しかった。助けて欲しかった。それでも誰も助けてくれないから何とかしようと足掻いた。それでも報われず、このままこの村は徐々に廃れて誰にも見向きもされずに消えていくと恐ろしくて仕方が無かった。
村を捨てて新天地を探すだけの力はこの村にもう無い。自分には村長としての義務があるから逃げる訳にはいかない。
逃げられない、周りからは責められる、苦しみ足掻いても『結果が出ないから』と誰にも評価されない。そして結局得る物は無い。
最悪な状況からどうしても抜け出せずに縋ったアールブルー学園。そこから来たのは貴族のご令嬢ではなく我々と同じ平民。
力も持たず、そもそも使えないと言われた。もう終わりだと思った。
だからこそ、最後の手を使った。
もし何事も無く、無事に救われたのなら、錠を壊した家に住んで貰わずにもっと良い場所に移って貰えば良いと思っていた。
力を貸して貰えるのなら埃だらけの床を舐めて綺麗にするつもりだった。
無礼だと私が処罰される分には構わなかった。
「どうすれば、良かったのか?」
どうしようもない。だからどんな手を使っても、何を使ってでも何とかすべきだと思った。
「もうだめだ……」
頭の中を過ったのはこれから見る事になる村人達の怒りの顔。失望の顔。絶望の顔。涙と溜め息。
最後に頭を過ったのは未来の村の末路ではなく、孫の顔だった。
これを頼んだ時、オーイはどんな顔をしていたか?
キノコの中に毒を入れた時、村の皆が苦しむ顔が見えた。躊躇いはあった、が、やるしかなかった。
村の皆を動かしてあの家に集めようとした時、村の皆の怒声が自分に向けられる気がして、オーイにその役を押し付けた。
自分は何をしたのだろう?
モリアーティーさんは、何故ここに来てあそこまで怒ったのだろう?
彼女の姿が、自分の醜悪さを映す鏡に見えた。
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