卑怯。

 シェリー君が仮称『怒り』を表現している理由はたった一つ。

 自分が散々な……汚物まみれにされて、その挙句に暴徒集団に襲われそうになった事はどうでもいいのだ。

 『孫娘を使った』という点を重要視している。

 「あの家には鍵が有りませんでしたよね?正確に言えば、壊されていました。

 他の家には鍵が有る中わざわざあの家を使う様に案内したという事は、最初からこの手段を考えていたという事ですよね?」

 「!」

 村に来て直ぐ、子ども達が宿屋の扉を開けようとして鍵が掛かって諦めていた。

 あの焼け跡もどきの家に案内される時に自称植物学者に出会い、その時ヤツは何と言っていたか?

  『あー、丁度良かったオーイちゃん。

 借りてる家の鍵・・・・・・・を失くしてしまってね。締め出されてしまったんだ。少し様子を見てくれないか?』

 その辺の廃墟や自称植物学者の家には鍵があった。だと言うのに、あの仮家には無かった。

 わざわざ少女を鍵の無い家に放り込むかね?

 『鍵が付いて、かつ家として辛うじて使えるものが数少なかったから先に来た自称植物学者に使わせてしまい、止む負えず使わせた可能性があるのでは?』

 そう考えた諸君。

 『一週間前』だ。自称植物学者は一週間前に突然やって来て、泊まりたいと言ってきた。

 シェリー君はその時未だここには居らず、あの学園の生徒という事で期待されていた。そして、この課題は一週間前にふと思い付いて用意したものではない。

 鍵が壊された痕跡は最近のもの。シェリー君が使う事を前提で、あそこは用意されていた。

「念入りに念入りに計画を練っていたのに、肝心要の部分は他人任せ。何故自分が出向かなかったのですか?」

 「……」

 「情報提供者のタレコミなんて間接的で伝言ゲームになるリスクを冒さないで自分が音頭を取って私をはりつけにでも殴殺にでもする様に断罪すれば良かったではありませんか。

 オーイさんが扇動するよりも確実に民衆を動かせましたよ。何故そんな無駄な真似をしたのですか?」

 吃驚する程冷静で静かで、だからこそ目の前で震えて嵐を何とか耐え凌ごうと蹲って震えている老人の前で、そんな姿勢を一切崩さない様は異常が過ぎた。

 「それは……その……オーイの方が親しくしていた分成功するかと思って……」

 「オーイさんと親しくしていたから、私が油断して簡単に家に入って証拠を置いて、事が確実に済むと、思った訳ですね?

 親しくしていると思った上で、その後何が起こるか解っていて、やらせたと。

 オーイさんは聡明です。当然何を手伝わされているか気付く事は解りきっていますし、実際に何をするかが解ったから私を陥れるか迷っていた。」

 「その……」

 「オーイさんは私が気付いた時、自分が犯人だと言って貴方を庇っていましたよ。

 自分の所為で目の前で人が死ぬかもしれない、自分に手を汚させようとした貴方を。」

 「…………」

 「卑怯。」

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