いざ犯人のお宅訪問


 「どういう事か、勿論、全て、ことごとく、詳しく、つまびらかに、徹底的に、始まりから今まで、説明して頂けますよね?」

 シェリー君にしては珍しく強い物言いと押しの強さ。あの学園環境で感情を押し殺す技術を必要以上に身につけてしまっているのだが、今回は感情がその技術を上回った。

 疑問符で語り掛けているものの、『沈黙』や『はいでもいいえでもない誤魔化し』・『下らないその場凌ぎの虚言』は決して許さないという、何としても自分の愚行を認めさせるという態度を突き付けている。

 「…………」

 たかが世の中を知らない小娘と侮って適当に相手をする事は最早出来ない。


・孫娘が持っていた毒キノコの小さな袋

・昨日仮家内部に置かれた偽の証拠一式

・それらを持ち込んだ筈の当人孫娘の観念した表情


 全て自分が用意した証拠品。それらを悉く目の前に叩き付けらているのだから。

 「あの場に居なかった事は勿論知っています。

 しかし、口頭で現場に居た人から話は聞いているでしょう?『私の家からこれら証拠は一切見付からなかった』と。」

 「…………」

 相も変わらず沈黙を続けている。既にこちら側には確証が有り、物証が有り、証人が居る。何も語らずともこちらには全容が見えている。沈黙に抵抗の意味が無いも同然。では何故こんな事をするのか?

 この行動には犯人の罪を暴き、その浅慮さ、愚かさ、卑怯さを認めさせ、悔いさせるという意味がある。

 「村長、貴方がやった事は全て無意味と化しました。話して下さい。」

 ここは孫娘の家。そして村長の家。

 今回シェリー君が汚物まみれになり、危うく私刑リンチの被害に遭遇しかけた原因。


 孫娘と仮家からここに来るまでの間に確認を取った。

 この村では毎日キノコを採取した後、一度共有スペースにそれを持ち寄り、村人数人が集められたものを全て手作業で確認、その後それぞれが採取した分を再分配するという少し変わった作業が存在する。

 これは以前、毒キノコ事件が起きた後に生まれた対策という話。

 中毒事件を防ぐ為に各々で確認した後、集めてそれを再確認。その後キノコを混ぜて再分配する事で採取時・分配時の二段階で安全確認をさせつつ、油断して採取時確認を怠ってしまった場合、『他者への被害が発生するかもしれない』という緊張感を生み出して手抜きを防止させる。

この取り決めの後、診療所の主な仕事は稀な風邪への対処と愚かな若者が根性試しに毒を喰らった連中への説教になった。

 村の連中ならば、再分配の際に毒キノコを忍ばせる事は難しくない。

 そして、今朝起きた騒動。孫娘は一体どんな言葉を誘導したか?

 『ナァニ言ってるんだオーイテメェ!

 言ったろーがぁ!信頼出来る・・・・・情報提供筋から・・・・・・・コイツがやったってタレコミ・・・・が来てんだよ!』

 孫娘に扇動するように指示を出した者と信頼出来る情報筋が手を組んでいたor同一人物である場合、誰か?


 孫娘の家族かつ村のトップ。

 村長なら、条件を満たしていると思わないかね?


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