獰猛なコピーキャット、あるいは凪いだ激流

 相も変わらず村長は座して沈黙。動揺はしているが孫娘程素直ではなく、それを押さえ込んでいる。


 それが解決策になると思っているから。


 物証、証人、状況証拠と揃っている。しかしここで問題だ。

 『一体誰がこの爺を裁くのか?』

 罪と罰は公平な社会システムとルール法律あってまともに成り立つシロモノ。


 被告側……村長(村のトップ)

 原告側……シェリー君(部外者)

 裁判長……村の人間


 推定無罪どころか確定無罪の茶番になる。

 故に、それが分かっている目の前の爺は黙ってやり過ごそうとしている。

 そうすれば小娘一人には何も出来ないから。

 「と思っているから間抜けな考えをして、シェリー君をここまで動かしてしまった。」

 硬直状態になった時、こちらが打破のために何が出来るかが解っていない。

 小娘一人と油断したのが致命傷。

 見飽きた人間の汚泥の様な欲望と謀略の沼底で生き延び、邪智謀略駆け引き騙し合いのノウハウは私が授けた。

 何より今、シェリー君は仮称『怒り』の状態にある。

 「今、私がこうしてこれらの物証を持って来ているという事は、家探しをされても持ち物を改められても問題無く、危険物を容易にこの村に持ち込み、隠していられるという事です。」

 一度、孫娘にアイコンタクトを取った後、村長に向き直る。

 その目には怒りがない。しかし、笑いも遊びもない。

 この状況下で不自然過ぎる程、不気味に凪いでいる。

 「もし、私がこれ以上村人から有らぬ誤解で疑われ、身の危険に曝されるというのであれば、私は自分を守るために有らぬ誤解を真実・・にせねばなりません。」

 まどろっこしい言い方だが、相手はシェリー君の目を見て最後通牒、あるいは死刑判決の類いであることをなんとなく察した。

 表情が変わり、口を開こうとする。

 「診療所を手伝った際、この村の医療水準とキャパシティーは十二分に調べられました。

 この辺りに自生する有害な植物の見分け方も知っています。

 そして、毒の入り込む余地があるという事も先人が教えてくれました。後は私が上位互換の模倣犯コピーキャットになるだけです。」

 顔色が変わり、身を乗り出そうとするが、それを許さずに顔色を変えず淡々と話し続ける。

 「私なら、単一の毒で対処が容易なんて真似はしません。

 複数の毒を用い、一斉に中毒を起こさせ、診療所まで持たせ、治療後に間に合わずに力尽きる様にして、貴方が最期になる様に、やって見せましょう。

 今度起きたら、診療所に手伝いは来ませんよ?」

 凪いでいるから穏やかとは限らない。

 水面は穏やかであっても、その下は荒れ狂う激流が静かに渦を巻いている事もある。


 我々以外の二人が震えた。

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