仮説だけ
空を飛ぶ風船を貰ってうっとりしていた子どもは幾らもいるだろう。
自分が幾ら膨らませても飛ばない風船が、手に持っていなければあっという間に空へと飛んでいくあの不思議さは子どもにとって魅力の塊だ。
そんな子どもの中に、こんな疑問を持つものが出てくる。『あれは翼も無いのに何故飛ぶのだろうか?』と。
最終的にその子どもは風船内部の気体が空気に比べて軽いと知り、そしてそれが学びのスタートとなる。
これはそんな子どものスタートと逆だ。
「村にガスが無く、森にガスが有ると仮定した場合、空気よりガスが重ければその矛盾は説明出来ます。
もし、私が移動していた場所が窪地で、ガスが空気よりも比重の大きなものであった場合、ガスは空気よりも重いために地面付近に溜まります。そして、この場合は窪地に溜まる。
もし、私が歩いていた場所が村よりも低い場所であったのなら、そこにガスが溜まっていたら、村で酸素欠乏症が起こらずに森の中で酸素欠乏症が起きた事に説明がつきます。」
「……確かに、その考え自体に矛盾は無い。森は街道よりも低い地点にあるから街道側にガスが撒き散らされる事はない。が、村側はどうだね?
村は確かに大きな岩のプレートの上に建っている。若干他の場所よりも高い。が、高いと言っても20㎝足らず。この差異で防げる程度であれば、君は酸素欠乏症にはなっていない。逆にあの現象がガス由来であった場合、村でも確実に被害が起きていた。
そんな異常が起きていれば、あの偽善若者が演説擬きをした時にその事を黙っている訳が無いだろう?
窪地なんて無かったと思うが、そこはどう説明する気だね?」
「私が最初に眩暈の症状を起こした時、あれがガスによるものでなかったと考えられませんか?
微妙な下り坂の道を下り、しかし私自身はそれに気付いていなかった。認知と実際の値の違いがあの眩暈を生み出していたとしたら説明が出来ます。
何時の間にか私は道を下り、窪地の底へと向かっていた。それ故に酸素欠乏症になってしまった……。
私より小さな子ども達がそうならなかった理由は『エルフごっこ』。つまり地面より高い位置に居てガスが溜まっていない場所を動いていたから平気だった。彼らが地面に落ちた時には息を止めていたというので、それも無事遊べていた理由の一つかと考えました。」
「森の中で通った『トンネル』。あの場所で木登りが出来ない状況下で症状が起きなかった理由は?」
「あの場所は上り坂になっていたのでガスの圏外だったと考えています。」
「で、根拠は?」
「……ありません。」
知っていた。
「恥ずかしながらそれに気付いたのが森を出て冷静になってからだったので………証明に必要な材料は……」
「仮説を捏ね回すだけでは何にもならない。つまり?」
「明日再度調査に森へと入ります。」
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