前夜であり当夜。
その晩遅く、村長の孫娘が晩御飯を持ってやって来た。
鍵などそもそも存在しないと解っているドアに触れもせず、声だけが聞こえ、『置いておくから……』という言葉を残して、急ぎ足の音が聞こえ、遠退き、シェリー君がドアを開ける頃には足音は完全に消えていた。
ドアを開けると地面に編まれた籠が置かれ、中には作って時間の経った事が分かる乾ききったサンドイッチと、すっかり冷めた二口程度の量のキノコの炒め物が入っていた。
「矢張り、こうなりましたか。」
冷遇されるのは当然、予想通りの事。
しかし、心構えがあっても本来は少女の心には堪えるべきものである。
「……私の為に有難う御座います、オーイさん。」
孫娘が消えていったであろう方向を向いてそう呟いた。
沈黙。人の気配も生き物の気配も無い仮家の中に僅かな咀嚼音だけが聞こえ。
それが止むと、シェリー君は開口した。
「問題なのはこの後です。」
「問題は何時だってこの時とこの後だけだ。怪物を始末してそれでお仕舞。
君は何を言っているのかね?」
「………たとえ森の問題を解決出来たとしても悪評を完全に払拭することは出来ないでしょう。怪物が居なくなったとしても、この村の外の人々は相変わらず怪物を幻視して近寄る事は無いでしょう。
それが問題です。問題解決を出来たとして、またもう一つ問題です。」
「いっそのこと怪物をバラバラにして観光名所にでもするかね?
怖いもの見たさで興味を持つ者や怪物について興味を持った真面目な研究者は幾らも来るだろうさ。
例の透明な怪物には分離機能がある。分解して村中で展示すれば少しは村も潤うだろうさ。」
「……その時は出来るだけそれ以外の方法を模索します。」
「頑張るといい。さぁ、では明日に備えてもう寝るといい。」
「………そうですね。早く寝てしまいましょう。
明日は忙しくなりそうですし……。」
テキストを開こうとしていたシェリー君は観念して眠りについた。
村の人間の大半が明かりを温存すべく光を消して眠りにつく。
シェリー君は観念して眠りについた。
私は眠りにつかずに思考を巡らせる。面倒極まりない厄介事が押し寄せてくる。そして私は極力それに関わるつもりは無い。
シェリー=モリアーティーは才能に恵まれていない。到底このままでは生き延びるなんて出来ない。
ならばと私が彼女の体を使い、邪悪を成して終わらせる事は簡単だが、無理矢理
森中が蠢く。あちこちに新たに生まれた傷、破壊痕、歪み、捩れ、砕かれた怪物の痕跡達。
濃霧の中で音が聞こえる。しかし、その正体が見える事は無い。
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