簡単な科学の話をしよう



 最初の霧の中での襲撃事件。シェリー君はあまりに冷静さを欠いていた。

 それが原因で危機に陥った。だけではない。子ども達が居なくなった事に気を取られ、気が急いた結果、気付けた筈の事柄に気付けなかった。

 あの時冷静であれば、核心には届かなくとも原因は掴めた。

 「最初、森に入った際に違和感がありました。

 足元が異様にふらついて立っているのがとても辛かったのです。

 勿論、その前に激しい運動と魔法を使っていた事が要因として挙げられますが、今考えるとあまりにその度合いが酷過ぎました。

 森へ入ってから急に起きた呼吸や脈拍の増加・眩暈めまい・筋力の低下。

 私はそれの正体が酸素欠乏症だと予測しました。」


 『酸素欠乏症』

 空気中の酸素濃度が低下した状態でその空気を吸入する事で起こる現象。

 人間が生きる上で最低限、最重要な物質、『酸素』。大気中に約21%ある筈のそれの濃度が何らかの要因によって低下し、それを吸い込んだ場合、頭痛や吐き気、眩暈や筋力の低下等が起こり、最悪の場合死に至る。

 ちなみに、酸素濃度が著しく低下した状態(酸素欠乏状態とも言う)の度合い次第では瞬時に昏倒、死亡する事も考えられる。

 殆ど毒ガスの類だ。

 何も加えるだけが毒ではない。あるべきものを無くせばそれは毒に成り得る。たとえ毒に対して何らかの耐性があったとしても、この毒を防ぐ事は困難。これだから魔法という強力な法則があっても科学は強力な武器足り得る。

 諸君も十二分に気を付けたまえ。何?そんなこと酸素欠乏症に遭遇する事は滅多にない?

 油断に満ち、想像力を働かせた柔軟な思考が出来ない君達には後程補習を課す。

 酸素濃度は些細な事で低下する。君らも『酸化』や『呼吸』という言葉を聞いた事があるだろう?

 例えば、鉄製の壁等で通風が不十分な空間や酸化する物体が貯蔵されている場所でこれは起こり得る。

 密閉された状況下で人間が呼吸をするだけで酸素は消費されても起こる。更に、光合成に目が行きがちで盲点だが、植物も呼吸をする。故に牧草や飼料を保管している場所でも起こる。

 そして、酸素以外のガスが充満している場所でもこれは起こり得る。たとえ充満しているガス自体が無害であったとしても、酸素濃度が減った状態では毒ガスに成り得る。

 シェリー君は自分がそれになった事が原因だと考えている。

 森に入った当初の症状の数々、そして最初の襲撃に対して十二分な対応が出来ずにいた事、それらは酸素欠乏症で確かに説明出来る。

 「だが、その要因は何かね?酸素濃度を下げた気体が撒き散らされていたとしたら、この村も、頻繁に遊んでいた子ども達も無事では済まないのではないかね?

 それに帰り道、君達は酸素欠乏症だったかね?違うだろう?このままでは大きな矛盾を抱える。それでは迷推理。こじつけだ。」

 「それが重要な点です。あまりにも偶然の環境。故に気付かれず、気付けなかったと私は考えています。」

 仮説は続く。





今回酸素欠乏症の内容を描くに辺り参考・引用させて頂いたサイト:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-3a.pdf

出典を明示しておきます。厚生労働省のサイトです。

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