悪手を選んだ理由
震え上がる村人達。追い詰められていた小娘が人を襲う怪物だという可能性を全く考えていなかった。自分達は多数派であるという自負と自惚れがあり、相手は四面楚歌の小娘だという油断と一種の軽蔑があった。
一転。形勢が逆転した……というより逆だったと気付いた。
冗談だと考える村人達も居たが、視線に対するシェリー君の返答は『真剣な視線』。冗談なんて考えは吹っ飛んだ。
先頭に居た若者もそれを聞いて臆し、打開策を模索するが、生憎それは見付からない。
「勿論、私は犯人ではありませんよ。ですから、そんなに怯えないで下さい。ただの村娘の私を歓迎して下さった貴方達を襲うなんてこと、決してしませんよ。」
真剣な目を止めて笑顔に変える。
民衆が割れて道が出来る。悠々とその道を歩き、次へと進む。
止める者は居ない。
そして、民衆の間に出来た道を通り終え、シェリー君の足が止まり、振り返った。
「あぁ、それと。もし、今日の件がどうしても気になるようでしたら、アルさん、ベーターさん、チェルシーさんに何故森へ行ったのかを訊いてみて下さい。彼らに訊くのが一番ですよ。
それと、昨日の件に関しても……直に明らかになりますよ、必ず。」
笑っていた。とても自然に、柔らかく、愛らしく、美しい笑顔。
しかし、先程まで追い詰められている様に見えていた筈の少女がそんな事をした。震え上がるには十二分な理由だ。
「それでは、本日はこれにて、皆様御機嫌よう。」
優雅にお辞儀をして、もう振り返らずにそのまま真っ直ぐ仮家へと戻っていった。
「あれで良いのかね?
あんな事をしては明日以降の村人からの心象は悪くなるのだが……」
恐怖や敵意、嫌悪感を抱かれる事は数多く、逆に尊敬や友愛や畏怖は少ない。
「理由は簡単ですよ。お分かりですよね、教授?」
「おぉ、怖い怖い。そんな目をしないでくれないかね?」
私が面白おかしい喜劇を目撃した様に笑い、シェリー君の顔は狂気に満ちた邪悪を目撃した様に強張った。
「もし、あれ以上危機的な状況にあったとして、私が何も抵抗をせずにいたとしたら、教授は何をしましたか?」
呆れる程に簡単な問い掛けだった。
閉鎖された社会で外へ脱出して助けを求めようとする者を完封出来る。
そしてその社会の中に脅威となり得るものは当然居ない。野犬にさえ成す術無く食い荒らされる連中のみ。
全員を一人一人素手で
目撃者は居ない。直ぐに発見される事もない。勿論決定的な証拠も残さない。
面倒ならば片付けるのが一番だ。
「ハッハハハハハハ…………正義の味方ごっこを止めさせたいのなら悪で徹底的に負かしてしまえば良いだろう?
悪に滅ぼされ、正義の味方だと思い込んでいた小僧は破れ、終わる。それでお仕舞いだ。
私にとって連中は、心底どうでも良いのだから。」
「そう思ったので阻止させて頂きました。」
まったく残念だ。
「で、明日以降はどうする気かね?
無罪証明に奔走するか、それとも……」
「事件解決に参ります。」
まぁ、ソウダヨネ。
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