一歩退く
「私は子どもを私欲で利用する方を決して許しません。決して。」
「じゃぁ君は君自身を許さないとでも言う気なのk……」
「オーイさん。私は午前中に子ども達と一緒に遊んでいましたが、その時に子ども達に森へ行くように指示しましたか?」
「え⁉あーー……してなかった。
そもそも一番慌てていたのって、モリーじゃなかった?」
ざわざわと民衆共の心が動く。その形相を目撃していた者は多数。そして若者軍団もその内に入っているからこそ、たじろぐ。
魔法、計算、運動の三つの性質の違う技術を同時に駆使し、一つに束ねた複合技能。三次元機動に重きを置いている関係上、直接的な問題解決能力は無いが、応用力が非常に高く、わざわざ衆人環視の中で使う様な安い代物などではない。あの学園であれば、同水準以上でこれを出来るのはかの淑女のみ。モラン商会で使えるのは傭兵達くらいのもの。演技に使うには高級過ぎる。
連中に技術の価値が分かる訳ではないが、そんなものを鬼気迫る形相で使う姿を見て救出の演技とは考えられなくなっている。
それが今、思考に刺さり、敵意が揺らぐ者が出てきた。
「も、もっと前に言ったんだろう?白状した方がいい。これ以上悪あがきをして罪を重ねるのは良くない。
昨日から起きたこと全部。君が全部やったんだろう?」
揺らいだからこそ奮い立てて畳みかけようと試みた。
「……貴方は私が昨日起きた襲撃事件も、今日子どもが森へ入った事も、私がやったと考えているのですか?」
シェリー君の表情が少しだけ冷める。それをにらみ返されたのだと勘違いした若者はそのまま踏み込む。
「あぁそうだよ!だから出て行けって言ってるんだ!」
安いメッキが剥がれる。
君、自分の考えている事が真実だとして、如何に危険な真似をしているのか解っているのかね?
「私は昨日、ここに来たばかりで人を襲う事はリスクが高く、あの食事会で長時間私のアリバイを証明して下さる方が居ます。それはあまりに不合理です。」
「ぐ……」
観客の心理はシェリー君側に傾く。
「それに、もし、私が昨日の件の犯人だとしたのなら人間を昏倒させる事が出来るという事になりますよね?
こんな風に人を集めて、特に武器も持っている様子も無し。私が犯人だとしたら、貴方は真っ先に昨日の彼の二の舞になりますね。」
「……それは」
青ざめる。格好つける事に夢中で真実に目を向けようとしていなかった男は己の言の恐怖を味わった。
この男の言葉がもし真実だとしたら、人を襲う恐るべき怪物が目の前に居る。
唖然とする程の三次元機動を可能とする怪物が。
果たして、これに抗える人間は村の中に居るだろうか?
「貴方は、本当に私が犯人だと思っていますか?」
「……………………………………………………」
先程までの勢いは何処へやら?目を伏せて黙りこむ。
観客もそれに気付いて震え上がった。
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