ソースはソース

 『エルフの村』。

 学園の図書室で見たエルフに関する文献の挿絵には幾つもある村の内の一つが実際に見たものとして描かれていた。

 巨木が並び、自然に出来た木のうろ・・や自身で太い木の幹を削り取って作った空間を居住空間として、あるいは若木を木材にして巨木の枝の上で組み上げてツリーハウスにして住んでいた。

 ここにはツリーハウス以外の要素がその絵と似ている。

 が、エルフの体格は種族の違うシェリー君と大差は無く、ここの樹木の大きさではエルフは住めないという点が大きく異なる。

 まぁ、ツリーハウスは出来なくもないが、そもそもこの場にエルフが住んでいたらそれはそもそも大事だがね。


 少しだけ霧が薄れて、辛うじて2m先のもののシルエットが見えるようになった。

 僅かな影が他の木々よりも一回り程幹の太い木々が並んでいる事を教えてくれる。子ども達と目線を合わせるべく木から木へ飛び移って動き、シルエットだった場所に着地…着木する。

 霧の白。木の茶色。葉の緑。どれもこれも暗がりで色は暗いが、やっと影の黒と霧の白以外の色が視神経を刺激した。

 シルエットの時に見た通り、他の木に比べて一回り太い。重なった木の葉は空を覆い、光を独り占めといった具合。

 幹を見れば枝の生えている箇所かしょの丁度上に大人の腕程の空洞、うろ・・が幾つもあった。

 

 周囲を警戒しつつエルフの村に入村。うろの中を覗き込む。

 うろの八割を確認したが、小動物の巣は無く、木の葉や塵一つさえなく、そして、子ども達の持ち物も無かった。

 「ここには無いですか……いえ、あれは!」

 収穫が無い事に項垂れてふと見た先、霧の僅かな隙間に白、茶、緑以外の色が映る。

 さきの反省をした結果、少し急いてはいたが注意が疎かにはなっていない。

 落ち着いて目に見える枝から枝へ飛び移り、辿り着いた場所に残されていたのは僅かではあるが乾いた鮮やかな赤い液体。

 体を少し硬直させ、直ぐに立て直してそれに触れる。

 血ではない。表面が乾いている段階で鮮やかさは消えていて然るべき。だからシェリー君は直ぐに冷静さを取り戻した。

 「何かの……ソースのようですね。」

 表面は乾いていたが完全に乾ききっていた訳ではなく、シェリー君の指先が赤く染まる。

 先程の連中がこの辺りに居て、ソースを木の枝に零した?この場合それを考えるのは中々に奇妙だ。

 先の輩。視覚がロクに機能しない霧の中、こちらを問答無用で殺しに来ていた。

 あの場で連中がこちらの気配のみで無差別に攻撃していたのなら、子ども達は今まで何度死んでいる?

 少なくともあれを捌けるというのなら、あの子達の事は誰かの耳に入って、今頃『原石』として売り飛ばされている。

 そして、連中が何らかの方法で識別してシェリー君を攻撃していたとしたら、今の今まで子ども達が串刺しにされていない以上、何らかの理由で襲われない理由があると考えられる。

 子ども達がこの近辺に来て食べた昼食の痕跡を残したと考えた方が自然ではないかね?

 ソースの具合からしてさして遠くには行っていない。

 「急ぎます。無論慌てずに。」




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