撤退。しかも無様な。
「え?なん、です」
足元がふらつき呂律が回らないシェリー君だが、相手にとってはそんな事、一切お構いなしだ。
殺意に満ちた相手にとってそれは関係が無いどころか好機にしかならない。
伸ばした自分の指先も真っ白な霧に消えてなくなるそんな中で、空を切る音だけが頼りだ。
霧の中から複数の刺突が迫ってきた。
「くっ!」
跳躍して木の上に飛びつこうとして転倒。
本来致命的な隙である筈のそれが相手の予想から外れた行動となって今回に限って功を奏した。
四方から突き上げる様に放たれた刺突が空を切る。刺突が交差するのはシェリー君の頭があった場所。
もし、転倒せずに跳躍していたのなら、今頃シェリー君の心臓は空中で串刺しにされていた。
霧でかろうじてシルエットが見える程度だが凶器が細剣や針の様に異様に細い。
下から突き上げる事で肋骨の無い部分から刺す。タイミングが合わずに肋骨部分に刺さる事になってもすり抜けてそのまま刺さるリスクが生まれる。
音が無ければ警戒されずにそのまま串刺しにしていた。それがなくとも霧の中で視覚が潰された状態で四方から刺す。相当な殺意をヒシヒシと感じる。
で、初対面でもない相手に挨拶よりも先に四方から刺突を文字通り突っ込む輩がこれでお仕舞な訳がない。
空を切った刺突が逃げたシェリー君を見つけて凶器が途中で直角に曲がり、頭から刺突が降ってくる。
それだけでなく地面すれすれを滑る刺突が更に4つ追加で四方向からやってくる。
「……っ!」
計8つの刺突がシェリー君に迫る。
息が荒く今にも倒れそうな中で体勢を立て直し、地面を滑る刺突の内の1本にこちらから敢えて低姿勢で突っ込む。
上空からの4本。地面近くの三本の直撃を避ける。
そして、7本を回避した結果受け入れた目の前のリスク1本を立て直した体勢をまた崩して倒れる様に回避する。
8本全てを回避したものの、最後の一本を回避した時に加速して倒れこむ様に避けた結果、受け身を取り切れずに近くの木に背中を叩きつける。
「う、ぐぅ……」
痛みに呻く声が聞こえるが、今回に関してはそれが気付け薬になった。
痛みで目を見開き、懐から風呂敷を取り出して木の上に投げ付ける。
風呂敷が展開。真っ直ぐに伸びて一本の紐になって太い幹に一端が引っ掛かる。
もう一端を掴み、魔力を流して紐の形状を変えて展開した風呂敷を元に戻しつつその勢いを利用して風呂敷を巻き上げて自分諸共木の上に引き上げる。
「……っ!」
背中の痛みと現状が相乗効果を発揮した結果、冷静さを取り戻した。
霧の中、風呂敷をアンテナ代わりにして襲撃場所から背中を向けて撤退していった。
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