お土産:デザートワーム
「私も少し急いでいましたし、商会の方針としてもあの状況を放置するのは如何なものかと思いまして、中継役、あるいは両者の交渉役を買って出ました。」
この時点で商品は持っていない筈だ。大丈夫だ。いくら商人であっても商品が無ければ問題無い。仕事が、書類が増えるわけがない。
しかし、副会長ジャリスの手足から熱が奪われていく。
冷や汗をかいているのも震えているのも動悸も息切れも眩暈も吐き気も過労で色々と調整が出来ないだけだ。
「お互いデザートワームという共通の敵が居た事と、私が完全に部外者であった事が功を奏してトントン拍子で話が進んでいきまして、あっという間に交渉成立。
連合軍が出来てサンドワームは撃退されました。」
良かった。儲けの話は無い。
「ということで交渉役として儲けてきました。」
オワッタ ナニモカモ
「モラン商会の名前を売っておきましたよ。いやぁ、交渉は商売でやってきましたが交渉役は初めてだったのでどうなるかと思いましたが無事果たす事が出来たようです。」
チガウ ソコジャナイ タシカニセンデンワアトアトジゴクダガ ソレヨリモウケダ
「イタバッサ、それで、一体、どれだけ、儲けた、んだ?」
「あぁ、申し訳ありません副会長。準備が無く金銭ではなく物品での報酬となりました。ただ、私も商人ですので都市一個、一週間分の時間をフイにしなかった分の対価。
交渉して釣り合うように貰ってきました。」
「………どんなものを もらって きたの か?」
「これです。あぁ、お待ち下さい。」
そう言ってイタバッサは部屋の外から例の歪んだ鉄製台車を押して来た。
ギィギィと不快な金属音を鳴らす台車の上には木箱が載せられ、中にはそこそこなスプラッタ画像が広がっていた。
表面はこげ茶色で若干光沢があり、異様に柔らかく細長いソーセージに見えなくもない。が、細長いソーセージの先端には丸い口があり、そこに円になった細く小さい歯が並んで幾重にも歯の円が重なっている。
妙なソーセージかと思って掴んだらヤツメウナギの親戚だった……それだけで悲鳴が上がってもおかしくない。それが木箱に絡まる様に何十本も入っていれば恐怖画像の類だ。
「威嚇をして逃がした個体も居ましたが、『繁殖が進んで数が多過ぎて生態系を壊しそう」という分析結果が出たので捕獲しました。これはその一部です。
表面の皮はなめして使えば頑丈で破れず伸縮性に富んだ素材になります。副会長はご存じかもしれませんが、爪や牙を通さないその耐久性は対獣の防具にもよく使われています。
そして、実は腸部分も職人の間では高品質な材料と有名でよく使われています。全長が1m足らずの長さであっても腸はその十倍は長いので一匹から採れる分だけで最高級品のロープが出来ます。
大きな個体のものとなれば大規模な研究所や大商会が大枚をはたいて買う代物。金鉱脈です。
ただ、ここにある分は全て1m級。残念ながら大した額ではありません。」
そう言ってイタバッサは肩を落とした。
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