交商人
さて、イタバッサが出先から帰ってきたら早速観光地調査に行って貰おう。
今奴には代金の回収を頼んだ。何時もなら足の速い三人組に頼むところだが連中は生憎未だ出先から帰っていなかったのでイタバッサが出る事になった。
特に何も持たせていない。馬車ではなく小さい早馬一頭で行った。流石にそれで大量の資材やら契約を持ってくることはないだろ……
ノックの音が響き、イタバッサが部屋に入ってきた。
「副会長、少し遠出をしたのですがその先で色々ありまして、竜の翼を二十頭分貰う事が出来ましたよ。
ただ、衛生面での証明書類と申請書類。兵器や防具、魔法実験にも使えるという事で使用用途の説明や入手先等の申請が大量に必要なので一通り確認後書類に判をお願い致します。
こちらが書類と翼です。」
部屋に入るなり、肌艶良い濁りの無い目でそんな事を言ったイタバッサは目の前に山盛りの書類と、人間の三倍程の大きさはある赤黒いドラゴンの翼を取り出して机に積み上げて、既に積み上げられていた書類が倒壊して俺を飲み込んで生き埋めになって………………………
「ぐぉおッ!」
俺が跳ね起きた。
書類に潰されて……ない!ドラゴンの翼……んなものが二十もあってたまるか!大事件だ!そうだ、今見た世にも悍ましい光景は、夢だ!
イタバッサが出ている事は現実だ。
そして、会長からの手紙に関しても現実だ。
大丈夫だ。あー大丈夫だ。これは夢じゃない。
頬は皮脂と埃とインクで汚れて滑るが、指先で思い切り引っ張った、痛い。
前に夢の中で仕事があっという間に終わってバカンスをする夢を見た事がある。その時は夢から覚めて、血が凍り付く思いをした。今回は不幸中の幸い、悪い夢だった。
「あ゛~
喉が渇き切って声が上手く出ない。腹も減った。
今日が何時かは分からないが、一食くらいは外で食べて日光を浴びる事が出来るかもしれ…
そんな事を考えていた時、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ。」
ドアがゆっくりと開く。
「失礼します。出先から帰ってきました。5日も遅れて申し訳ありません。」
さっきまで夢の中でドラゴンの翼を嬉々として持っていたイタバッサ。しかし、現実のイタバッサはしっかりとそんな物を持っていない。
「ん?あぁ、そうだったのか。何かあったのか?」
日にちの感覚が完全に消失してもう一日も一週間も区別が出来ていない。
「はい、頂いた連絡術式は飛ばしておいたのですが、道中砂漠でデザートワームの足止めを喰らっていました。」
デザートワーム、あるいはサンドワーム。砂漠地帯に住むミミズもどきだ。
地面の中を這って移動し、大きなものは10mを超え、家畜程度なら丸呑みにする。
ある程度知能はあって賢い為に人間は襲わないが、荷物を狙ったり、間違って人間を襲う可能性がゼロではない等と危険である事に変わりはないために目撃証言があれば砂漠地帯は立ち入り禁止にされる。
そうすると周辺警備官達が対応するか、その地域の管轄貴族が私兵か、居なければ傭兵を差し向けて対応をする。
地表で魔法や爆発物、大槌等で爆音を鳴らして驚かし、人の居る地域から追い出すのが一般的。それでも地中という人間にとって不利で足を踏み入れられない環境に連中が居る関係で、どうしても追い出すには頭数が必要になる。
「大群が発生して、警備官や貴族の手に負えないという事になりまして。で、警備官と貴族の方々が民間に協力を求めていたのですが、少し手間取っているのを目撃しました。」
『
警備官も貴族も駆け引きや民間単位での契約には明るくない。
民間に協力を求めて、良い返事が無くて逆ギレして、高圧的に言う事を聞かせようとして失敗した姿が見える。
にしても、何故胸騒ぎがする?帰って来ただけなのに。竜の翼要素は全く無いのに。不穏さは無い筈なのに。
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