幾つもの夜
診療所ではこの村唯一の医者、ドクジーが鬼手仏心とはならないが、卒倒した村人を看病していた。
相当な高齢であり、足は不自由。それでも元は騎士としてやっていた経験はあり、未だに一晩の看病程度で揺らぐ様な虚弱さは無い。
若者が毒キノコに中って診療所に担ぎ込まれるという日常茶飯事をこなしている老医師にとってこの程度の症状では大した刺激にさえならない。
集会所には村に住まう大人の大半が集まり頭を抱えて殺気立った様子で話し合っている。
「おい、どうする気だ?」「別に構わんだろ。今更だ。」「あれが誰かわかるか?」「それより怪物だ。なんで怪物が現れたんだ?」「怪物様がお怒りってか?ふざけるなよ。」「あの小娘疫病神なんじゃ…」「そんなのいやしないでしょ?」「いやいる。俺は見たんだ!」「アールブルーっていうからてっきりお嬢様だと思ったのに……」「アイツがやったんじゃないの?」「もういやだ……」「森を燃やそう!」「何を言っとる馬鹿者!」
議論というよりは暴動寸前。点火された爆弾のようだ。
大人達は過去に味わった甘い蜜の味を覚えてしまい、何もないこの現実に戻れない。かと言って自分達で過去の栄光を取り戻す力は無い。それは今まで見た大人達の対応と、子どもと大人の中間にいる若者達の姿を見れば明らかだ。
子ども達は過去の栄光と物質的豊かさを知らない。だから現状に不満が無い。
不味い木の実を工夫して美味に調理したシロモノを楽しむ事が出来る。
豊かさを知らないから哀れと嘆くべきか?否、彼らには今の自分達を憐れみ嘆くだけで何もせずにいる大人よりも日々を楽しんでいる。自分を哀れまずに生きている。
彼らには外に出るという選択肢もある。こんな閉鎖的な場所で楽しみを見出しているのだ、広い果ての無い世界で楽しみを見つけ、意味を見つける事は難しくあるまい。
「皆、私に任せてくれ。
思う事はあるだろう。怒りたい事、不安な事、言いたい事、厭な事、色々あろう。
だが、少しだけ、待って欲しい。私に考えがある。これが巧く行けば村の皆が幸せになる。これが巧く行けば元通りになる。勝算はある。
そして、もし失敗したとしても、その時は、責任は私が取る。
だから頼む、少し、時間をくれ……」
村長が、皆に向けて頭を下げた。
四人の若者達は集会所には居なかった。
各々手に木の棒や錆びた農具を手にして夜の村を
自分達には
外部から助けを求めて情けない姿を晒す大人達ではなく、自分達で動き、解決しようと懸命に動いている自分達が先導し、この村を変えられると信じていた。
ウルス=グレイナルは夕刻からの一連の出来事を一切知らされておらず、呑気に自分の部屋で眠っていた。
「「「「「ごちそうさまでした。」」」」」
若人達は甘い香りの未だ残る真っ黒な部屋で、楽しい宴を終えたところだった。
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