魔性の琥珀2

 孫娘が吸い込まれていく。

 「おぉ、おおぉ、ぉお……」

 愛おしそうに、狂わしそうに、我が子を抱く母の様に、そして飛んで火に入る夏の虫の様に、琥珀の入った鍋へと小刻みに震える手を伸ばす。

 「未だ熱いので、気を付けてお召し上がり下さい。」

 その言葉が、孫娘の最後に残った僅かな理性を虫の様にすり潰した。

 「あ゛~…………」

 アルコールは飛ばしてある。違法薬物の類は当然、一切、全く、入っていない。

 が、木の実を口にした孫娘が今見せている表情は蕩けきって恍惚としている。食べ物を口にした時の表情ではない。何を盛ったかと問い質されてもおかしくは無い程の表情をしている。

 「ああ、良かった。旨くいきました。」

 表面のカリカリとしたカラメルの甘味と僅かな苦み、香りが口の中に溶けて広がる。そしてその後から続く木の実のホクホクとした食感、甘さ、香ばしさが咀嚼する程に感じられ、カラメルと混じり合い、より蠱惑的な味わいに変わっていく。

 目の前で調理しても、昼間の宴に出ていたものとは別の食材だと信じ込ませる事が出来る程の甘味に変わった。

 「ですが、2人で食べるには、少し、多過ぎましたね?このままではぁ、余ってしまいそうです。

 誰か、食べてくれないものでしょうかぁ?」

 わざとらしく、目の前の孫娘ではなく仮家の外に向けて間延びした声を掛ける。

 「何言って……あー、成程そーゆー事……。」

 孫娘が疑問を抱いて、直ぐにシェリー君の行動の意味を理解した。

 仮家の外にもこの香りは当然届いている。

 大人達はさきの件で騒ぎ立て、誰も相手にしてくれない。

 そして今日やって来た人は集会所で楽しい話をしてくれた。

 今なら外に出ても自分達を咎めやしない。

 こっそり遊びに来て驚かそうと悪戯心を働かせていると、良い匂いが漂ってくる。

 そして、それが余っていて、誰かに食べて欲しいという言葉を聞いて、我慢出来るだろうか?


 3人の子ども達が顔を覗かせた。


 仮家に5人の若者が集う。

 シェリー君、孫娘、第一から第三村人の子ども達。

 蚊帳の外に置かれた者達は別の場所で頭を突き合わせて悩んでいる大人達など何処吹く風とばかりに宴を楽しんでいた。

 木の実はシェリー君の読みが的中。山盛り一杯作ってあったお陰で、子ども達が存分に食べ、シェリー君も孫娘も十分に食べられていた。

 「おいしい!おいしい!これ何⁉なんてお菓子⁉凄い!」

 「どうやって作ったんです?魔法です?もっと食べてい良いです?」

 「有難う御座いますです。とってもおいしいお菓子です。」

 恍惚とした孫娘にキラキラした目の子ども達。

 今夜、この村のここだけは穏やかで楽しそうな笑い声が聞こえていた。

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