心情七重奏
金は十分、人も十分。周囲は自分に力を貸してくれる味方ばかり。
培ってきたものがあって恵まれて、あとは自身が存分に暴れるだけ。
それなら簡単。得意なことをするだけでいい。
それでも油断はせずに何時も通りにやっていく。
変化がない。刺激がない。詰まらない。
それは穏やかさの特徴であり、日々に命の危機が内包されていない事の証左。自分が安心しているからこそ出来る贅沢な事柄。
だがしかし、
毎日毎日が同じ始まり、同じ終わり。延々続くループのような永遠の光景の繰り返し。
厭だ。
違う景色が見たい。今日とはちょっぴり違う、今日と違った始まりで、今日と違った終わりで、延々続く環から外れた永遠ではない刹那の日の光景が見たい。
だから少しだけ、期待している自分が居る。
希望が欲しい。切欠が欲しい。助けて欲しい。
飢えて死ぬ事は無い。しかし満たされる事も無い。何時だって必死にやっているのに報われやしない。
このまま誰にも見向きもされずに徐々に徐々に廃れ衰え消えていくのか?
そんな訳にはいかない。止めなくては。
どうにかしてこの状況を打破しなければ。
上手くいかない。僅かな望みに賭けてみたものの無駄骨無駄足だったことは心に重い鉛を流し込んでいく。
何度も何度も望み、そしてその度に落胆していた。もう何度目だろう?
致命的…とまではいかなくてもこのままでは将来が心配で仕方がない。
何とかしないと。見つけないと。
手を入れた。安全と安定がこれで確保される。もう一二度手を加えれば使い物になるだろう。
あと少しだ。もう幾つか問題点を炙り出し、あわよくば予定していた以上の能力を。
邪魔は入らない。材料は十分。何よりここには最高峰の頭脳がある。
もう少しで人類にとって画期的な一歩が踏み出される。
笑いが、こみ上げてくる。
誰も居ない中で思う存分笑い声を響かせる。
その声が聞こえているとも知らずに。
信じられない。荒唐無稽。騙されている。
そんな声を無視する。
その可能性は十分考えた。考えて、それでも信用出来ると思って賭けている。
前金はたっぷり貰った。これで成功させればこの三倍は手に入る。
絶対上手くやろう。落ち着いて。慌てずに。慎重に。
面倒で退屈で息が詰まりそうだが、ここで少しばかり苦労すれば労働の後の一杯は格別だ。
その一杯が、楽しみだ。
増えた。増えた事はよいことだ。減るよりよいこと。
だからいつも通りに過ごす。
増えたからと、いつもと違ったらだめだった。
いつも通り少しずつ、少しずつ。
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