スバテラ村に到着
眼下の靄が薄くなり、地面が見えてくる。
地面が迫ってくる速度と落下速度に齟齬があるが、それは勾配のせいだ。
村と周辺の地理は事前に一通り頭に入れていた。それによれば村の在る場所は一段高い一枚岩の上にあり、緩やかな上り坂を行って『一段高い平地を少し進んだ先に村の敷地を示す柵が見えてくる』ということになっていた。
本来在る筈の上り坂は殆ど消えている。その理由は明白だ。
森の様子は靄のせいで見えなくなっていたが、浸食度合いの深刻さは推して知る事が容易に出来る。
今回は移動優先ではあったが、この森は一度見てみなければならないだろう。
「着陸します。」
「あぁ、最後まで気を付けてくれ。」
流す魔力を調整してグライダーの羽の先端から徐々にただの布に戻し、高度を落としていく。
念のため周囲を警戒して着陸予定場所の安全確認。
地表に見える簡素な囲いの外、誰もいない所に無事、着地。と同時に地面に広がろうとしている風呂敷を畳んで元の1m四方に戻す。
無論汚したくないというのはあるが、折り畳む際に泥や砂埃が一緒に折り畳まれると次に展開する時に上手く作動しないリスクがある。次を考えておくべきという面が大きい。
今回の件は例外が多い。用心に越したことはない。
「ここがスバテラ村ですか……」
囲いの中に踏み切り数分、整備されていない土の地面を少し歩いて行った先に村はあった。
シェリー君の声と表情からは少し哀愁に似た感情が見て取れる。
目の前に広がる光景は『つわものどもが夢の跡』とでも言うのが相応しい荒廃具合だった。
元々豊かではない場所が徐々に衰退して消滅していくのではなく、一度栄え、そして今まさに栄えたものが形骸化して朽ち果てて……滅亡しているその過程を見ている。
広々とした道。馬車を停めるためのスペース。幾つも幾つも建てられた意匠の違う大小様々な宿屋。飲食店、商店………………
過去にそれらが人に必要とされていた。
人が行き交い訪れる者が数えきれないほどいた。
道には僅かな雑草が生えているかと思えば盛った土が流れてその下の一枚岩が剥き出しになっている場所もある。
馬車を停めていた場所は荒れ果てて数年間使われていなかった事が分かる。何せ車輪の跡が影も形も無い。
こんな場所に誰が泊まりに来る?居ないさ。
だから幾つもある宿屋は使われずに朽ち果て、扉が外れ、そこに何匹もの蜘蛛が巣を作り、宿屋の内と外を隔て、そこを通ろうとした憐れな餌が幾つも幾つも捕まり藻掻いている。
村全体に活気は無い。子どもが数人、探検ごっことばかりに廃業した宿屋の扉を引っ張って、入ろうとして、鍵がかかって肩を落としている姿が唯一の活気だろう。
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