招かれざる客同士

 「あ、自分モラン商会のレンって言います。宜しくッス。

 にしても、やーっぱり臭うッスねぇー。」

 『どこまで行っても軽い男』と全身で主張したレンと名乗る若者は暗がりの中、手に持った筒状の……暗がりでも分かる明るい色の望遠鏡を覗き込むようにして遠くで輝く草むらを見ていた。

 「んー、地下。

 人工的なもんッスかねぇ?こんだけ五月蠅いってことは結構な人数はイケるキャパって事ッスよねぇー。遮音効果無しッスけどバレないモンッスねぇー。

 あー、でもこの辺物騒ッスから夜なら来ないッスか……で、日中は襲撃してっからそもそも問題にならない………考えられたモンッスねぇー。」

 警戒心が無くなっている自分にやっと気付いた。 

 自分がサイクズル商会の人間で、あそこ・・・が何なのかを知っていて、尾行してウチの商会の秘密を掴んでしまっている。

 商売敵の不祥事。しかも他の商会までも敵に回す違法行為。リークしない理由がない絶体絶命の状態…………どうすれば良いんだ?

 頭の中でドロドロとした何かが流れる中、背中から寒気がして、空を切る音が耳元でした。

 「おっと、モラン商会は背後からの不意打ちにも対応出来るッスよ!

 特に今みたいに狙われる理由がある時は徹底的に警戒してるッスからね!」

 いきなりそう叫ぶと背後に向けて急に望遠鏡を振り回した。

 望遠鏡が何か・・に当たり、金属音が闇の中に響いた。

 「いやぁ、ワンチャン盗賊使って始末しに来る可能性もあったんッスけど流石老舗商会の会長。本職の人呼んでくれるのは豪儀ッスねぇ。」

 レンはこちらを見て……違う、後ろだ。後ろに、誰かが居る。

 「なんだぁ分かってたのかぁ……誰に何をされたか分からないままで死んでいくのって見てて楽しいのにぃ……」

 ネチャリネチャリ、耳の中でナメクジが這う様な感覚。それが耳の中から全身に回っていく、寒気がする。

 後ろから黒いフード付きの外套に身を包んだ小柄な男が脇をすり抜けて行った。

 「ニタリさん!強襲は失敗したんですから切り替えてキリキリ殺さないと、失敗したら私たちが死んじゃいますよ!なんか依頼主もバレてるみたいですし!」

 長身の女の子がフード付きの外套の男を追いかける様に追い抜いていく。こちらは対照的に明るくハツラツとした声で、その手には大きな槌が握られていた。

 「キリキぃ、お前は喧しいぞぉ。俺達殺し屋は殺せれば良いってもんじゃない。

 静かに、確実に、絶対に殺す。

 それが大事だぁ。

 そして、この状況で他に俺達を雇った候補なんて居ないだろうがぁ、依頼主をバラすなぁ。」

 「でもニタリさん!相手にとって私達殺し屋は最期に見る人になるんですよ。だったら最期くらいは明るく楽しく元気よくした方が良くないですか?

 それに、殺せば口が滑っても大丈夫です!」

 二人の言葉を聞いて背筋が凍った。

 なんて言った?

 「殺…し屋?」

 絞り出した声に気付いたニタリという男がこちらを見た。

 「あーぁ、依頼されれば親でも子でも自分でも殺す。それがぁ俺達殺し屋の仕事だぁ。」

 「今回はアナタとそこのレンさんって方を殺すように言われています。

 おとなしく、死んでください!」

 フードの男と大槌の女が構えた。

 「おー、殺る気十分じゃないッスか!しかも、俺を先に狙ってくれるみたいッスねぇ!」

 レンという男は異常だ。非戦闘員のただの商人を無視して臨戦態勢にある殺し屋二人を前にした状況で、余裕綽々という訳では無く、虚勢を張っている訳では無く、玩具を新しく買ってもらった子どもの様なキラキラした顔をしているのだから。

 「お前の方が強いぃ。そして厄介だぁ。

 それにコイツは後でも殺せる。」

 「貴方の方が強いですよね?

 じゃぁ、よろしくお願いしまぁす!」

 大槌が号砲を鳴らした。

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