駆け出しニューマンは二度驚く(一度目 続々)

 目の前の男を見上げる。筋肉で身体が膨らんでいる訳じゃない。が、恵まれた骨格に無駄なく筋肉を張り付けた姿は目の前で見ると迫力がある。

 隣にいる警備官もそこそこ大きい筈なのに、比較対象になってしまっているせいで子どもにも見える。

 そして、目の前に来て気が付いた。さっき大声で投降を呼びかけていたのはこの人だ。

 「ウチの妻と娘は…なんだ?」

 大男が俺と、隣の警備官と、謎の男に問いかける。

 圧力が……強い。

 「女神の化身…否、女神が嫉妬するウルトラプリティーな存在かなぁ?」

 「非常に素敵な方かと思っております!」

 「…………会ったことがないから分からないです。」

 事情を知る二人の後で空気を読まずに言った。

 不正解だろう。そりゃあ合言葉なんて知るわけが無いし、そもそもさっきから合言葉を聞いてたが、頭の悪い褒め方しかしてない。

 法則が分からないから予測も出来ない。

 だから、いっそ正直に言おうと思った。

 「会ったことがないから分からない?」

 圧が凄い。潰れそうだ。人間にはここまでの圧があるのか?

 「良いだろう、今度うちの妻と娘に会わせてやろう!きっと素晴らしさで感動する!ウチの妻と娘は素晴らしい!いや、素晴らしいを更新し続けて最早素晴らしいや最高や完璧を更新し続けている訳で、かと言って過去が色褪せているわけではなく過去は過去、今は今、未来は未来でそれぞれ眩く輝いている訳でそれぞれがそれぞれの良さで輝いていると言うのが相応しい気が…………」

 精悍な男が一気に毒気が抜かれて浮かれた笑みを浮かべ始めた。

 言葉が出る度にニヤケ方がひどくなってる?

 「隊長、私は戻ってよろしいですか?」

 ニヤケ顔の隊員が恐る恐る手を上げて顔色を伺う。

 「ったく、親バカ嫁バカだなぁ、この隊長。

 隊長!仕事仕事!まだ仕事中だから、格好良い夫とパパ見せるんだなあ。」

 「良いだろう、では一人確保だ。」

 大男が申し訳なさそうな顔で横に立っていた警備官の顔にいきなり一撃を食らわせる。

 不意打ちで完全に顎に入った警備官は混乱する間もなく目を回して、姿が溶けて、盗賊になっていった。

 「『非常に素敵な方』じゃねぇ。

 残酷なまでに非常で素敵で無敵な俺の妻と娘だ!」

 ニヤケ顔が強面に変わった。

 「……凄い、はじめから分かってて…」「これは多分地なんだなぁ。多分普通に褒め言葉合言葉が気に入らなくて殴っただけかなぁ。」

 「当然だろう。さぁ、仕事だ。

 直ぐ終わらせてお前を風呂に入れて綺麗にした後で妻と娘の元に連れていかねばならない。」

 そう言って去る背中は不覚にも頼もしい警備隊隊長の姿に見えてしまった。

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