If?:触れ愛63
<尖塔頂上の号砲から遡る事2時間前>
赤色が一滴 一滴 と 流れ落ちる。重力に従って地面に紋様を作り出し、鉄火場を汚していく。
しかし、本人はそれが見えていない。何かが滴り落ちているのがなんとなく解る程度。それが自分の血液だと解る訳がない。
つい今しがた友人から思い切り殴られて縁切りをされ、脳を揺らされ視界も感覚も思考もまともに機能していないのだから。
「あぇっ…?え?え……あぁ?あんダ?」
殴られた理由は単純に『奴隷にされかけた仕返し』というだけなのだが、痛みと揺れ動く世界の所為で全く頭が働いていない。殴られたという事も解っているのだろうか?
「おい兄さん、困るぜ。鉄火場で流血なんざ縁起でもねぇ、なんであんなの連れて来たんだ?
……あーあ完全に入って焦点合ってねぇや。まぁいい、今日は取り敢えずお引取り願って明日また……来て貰えるか?」
「おー…しっかり顎にはいったなぁ……大丈夫かい旦那、手を貸すぜ。」
淡々とした様子の鉄火場側の人間と面白がった様子の博徒がそれぞれ男の両手を持って引き摺っていく。
「なー、あー……エライ目に遭った。」
ズキズキする頭を押さえながら街を歩く。
「あ゛~頭痛っ。
…………酒だ。酒飲もう酒!」
『酒は万の薬草にも勝る』という酒飲み御用達の言葉を免罪符にして博打狂いは酒場へと足を向けた。
「よ!
むせ返る様なアルコールと雑多な料理と汗の臭い、それに騒音が歓迎する。街の外から出稼ぎでやって来ている顔馴染みがそんな中で特徴的な訛りで声を掛けてきた。
「あー、兄弟失敗だよ失敗。悪いな、睡眠薬まで借りたってのにしくじったみてぇだ。」
拳を合わせる。この男の故郷ではこれが男同士の挨拶らしい。
「あらぁ、
大きなジョッキに赤い透明な液体を注ぐ。
「飲め飲め、
「あぁ、有難う兄弟!」
ジョッキを乱暴にぶつけて逆さまに。赤い色の液体を喉へと流し込んで杯を乾す。
「あ゛あ゛ぁ゛!ウマイ!」
頭の痛みが薄れていき、愉快な気分でいっぱいになっていった………
「
酒酒酒。理性など邪魔だ要らないとばかりに捨てて酒に体を浸す。
あれから
「さー
千鳥足を通り越して往来を蛇行して歩く酔っ払い。
真っ赤な顔に拭った鼻血の跡、目は焦点が合っていない。
他の酔っ払いも似たようなもの。どうしようもない者同士が肩を組んで酒に沈んでいた。
だから、気付かなかった。
肩を組んでいた隣の男の体が輝き、全身に妙な模様が浮き上がって光ったと思ったら破裂して、同時に姿が見えなくなった代わりに自分の半身が真っ赤になった事を。
自分の体にも妙な模様が浮き上がり、体が光り輝き始めた事を。
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