If?:触れ愛62

※次話辺りからレーティングに引っ掛かりそうだと感じたら即時報告お願いします。差し替え検討致します。

精神・物理的グロテスクが描かれるので苦手な人は飛ばしてください。(今回はまだです。)




 身なりの良い女は従者も付けずに一人で奴隷8人の猿轡と目隠しを外し、縄を慣れた手付きで切り、俺を含め全員を解放した。

 呆気無く解放されて戸惑う。

 華美ではないが良品に身を包んだ女は俺を含めて8人の途方に暮れた元奴隷の成りかけ達の前で堂々とした出で立ちで言った。

 「さぁ、君達は自由だ。

 親に捨てられ売られた

 盗賊に捕まり売られた

 浮気相手に始末された

 濡れ衣を着せられた

 魔法の実験台にされた

 組織の抗争に敗れた

 異種族だから売られた

 友人の博打代にされた

 しかし、君たちに非は無い、これは理不尽だ。君達は自由であるべきだ。私は地に囚われる鳥を許してはおけない!

 だからこそ私は檻を破りに来た。さぁ、私の望みは叶えられた。死が君達を奈落に落とすまで羽ばたきなさい。それが、私の望みだ。最期のその時まで自由に、生きなさい。」

 それだけ言って去っていった。

 自己満足の為だととりあえず納得することにした。

 俺達は幸運なのだろうと、そう考えることにした。

 正直言えば、自己満足で8人の奴隷を解放する事に理解も共感も出来ないが、危うく友人に恩を仇で返され、尊厳ごと牽き潰されて怨念と呪いの言葉を吐きながら終わる所だった事を考えると、まぁ良いかと考えるしかない。

 今日も昨日と一緒の人の暮らしが出来るのは幸せ者だ。今日から名も知らない女主に感謝して生きないといけない。

 さぁて、切り替えて明日から希望に溢れた生を謳歌しよう。…………おっと、その前に今日やる事がある。




トアン=ボームは地面を憎らしい程に蹴り飛ばし、賭博場に向かっていた。

 刺激を求めてではない。

 金を求めてではない。

 渾身の左ストレートを然るべき者に喰らわせる為だ。

 金を借りて借りて借りて返さず、博打に取り憑かれ、溺れ、挙げ句に睡眠薬を飲ませて友を奴隷に貶めんとした外道に渾身の一発を喰らわせねばならない!だから……

 「へっ、トアン?何で君がここに……?」

 「死にさらせこの博打屑バクズがぁぁぁ!」右足を踏み込み、左ストレートを頬骨に叩き込んだ。ゴキリという音と共に拳が痛む…がそれを振り抜く。元友人、現博打屑バクズが吹き飛び鉄火場がひっくり返る。

 「あばよ、賽を振りたきゃ今度は自分を売った金で振りな!」

 博打屑バクズがその後どうなったかは知らない。頬が真っ赤に、3倍に腫れ上がり鼻血まみれになって介抱しようとした者数人の手に掴まり、千鳥足でうわ言を喚いていたのだが、それは知らない。その時にはもう賭博場を後にしていたのだから。




 「細工は流流、あとは仕上げを御覧じろ。とでも言ったところかな。」

 奴隷の解放という奇妙な出来事がこの街で起きた後、立役者の女主人はと言えば、この街で一番高い建物、通称『尖塔』の最上部に立っていた。

 「親の元には戻ったか、はたまた新たな親を見つけたかな?

 然るべき機関に連絡して盗賊は討たれ、他に売られた者は見付かったかな?

 浮気相手を白日の元に曝したかな?

 自身の無実と無罪は証明出来たかな?

 非人道実験にピリオドは打てたかな?

 組織に返り咲くことが出来たかな?

 ここに隠れ住む同胞達に会えたかな?

 友人とは縁を切れたかな?」

 眼下で人々が日々を営んでいる。

 それは小さくて儚くて、ここから見ればちっぽけな紋様。

 彼女のやった事が目に見える訳など無い。

 彼女の質問に答えるものはない。

 「さて、では始めるとするか。」

 彼女がここに上った理由は二つ。

 1つ目はこれからの街の様子を眺めるため。

 そして2つ目は、仕掛けた術式が街の何処に在っても作動するようにするため。


 『Badmorningさぁ、始めよう。&そして、badnight終わり始めよう。

 女主人が手を天へと突き上げると同時に、その手には奇妙な紋様が現れ、怪しく輝く。

 「悲劇とは理不尽なもの、惨劇とは突然幕が上がるもの、自分が舞台に上がりたくなければ、代役を立てるしかないのさ。」

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