If?:触れ愛61
※急に内容が飛びます。ご了承を。
人は生きる為に他人を探し、触れようとする。必死で、自分が生きる為に、他者との触れ合いを切望する。触れ合いがなければ人は生きていけない。他者が居なければ人は生きていけないのだから。
血眼になって、手足が返り血と自己血に染まるのも構わず、隠れる者は徹底的に探し出し、触れる。触れた者の体に刻まれた紋様が輝いて、触れられた者の体には今まで無かった紋様が刻まれた。触れた者は狂った様に喜び、直ぐに眼を爛々と輝かせて駆け出す。触れられた者は自分に刻まれた紋様を見て苦悶の表情を浮かべ、直ぐに立ち上がり、駆け出す。その顔は先刻自分に触れた者と同じ、狂暴で横暴で切望で絶望で、血走った眼をしていた。
この者もまた、同じ様に人を求める。一刻でも長く生き延びる為に足掻き、探し出して、触れる。
これが延々繰り返される。
人の繋がりが都市を走り、広まり、蝕んでいく。
都市一つが狂乱と混沌に陥れられた。
誰もが殺人鬼の生け贄で、誰もが生け贄を求める殺人鬼になったこの赤い都市の最期を知る者はたった一人だけ。
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『騙された!』
猿轡に目隠しをされ、両手両足を縛られて転がされたトアン=ボームは恐怖とそれを塗り潰す怒りで体を震わせていた。
それでも暴れないのは、先刻それをやって縄が手足に食い込み、怒号と共に無防備な腹を蹴り飛ばされて散々な目に遭ったからだ。
『散々人に借りておいて、もう貸さないからってここまでやるかよ!』
トアンはお人好しではないと思っている。が、
非道いようだが、幾度も金を貸し、返すと信じて渡した金を賭博場に吸われた挙げ句、そこまでやった相手に今日遊ぶ金欲しさに薬を盛られて奴隷商人に売り飛ばされた男には相応しい称号だろう。
『次会ったらブン殴ってやる!』
冷静さを欠いている。次なんて有るわけがない。
筈だった。
「ッ、おら、手前のご主人様が決まったぞロクデナシ!」
舌打ちをされながら乱暴に引き摺られていく。
「あぁ、あまり乱暴に扱わないで欲しい。君、大丈夫かい?」
低く、落ち着いた声の女の声がした。
怒りと恐怖で沸いていた全身の血が少しだけ冷めたのが解った。
「他の7人も丁寧に頼むよ。
代金は弾んでるんだ。傷なんか付けないように丁寧に、ね。」
「解ってますよ、少々お待ち下さい!
………ったく、金持ちは意味が分からねぇ…」
乱暴な足音と声がどんどん遠ざかっていく。
「あぁ君、安心して欲しい。私は君を買ったが直ぐに解放するつもりだ。
全員準備が出来てからになるが、待って欲しい。」
『怪しい』
奴隷は安くない。
少なくともイカれた博徒が今日遊ぶ分くらいの価値で売れる。
買う時は更に商人の利益が載せられて跳ね上がる。
8人分の対価を用意して、それを直ぐに捨てる。
『解放されるのは獣の檻の中かはたまた生贄の祭壇の上か』
そう思っても何ら不自然ではない。
「おっと、猿轡と目隠しくらいならもう外しでも良いだろう。失礼。」
そう言って猿轡と目隠しが外された。
さっきから話している声の主が目に映り、呻き声だけでなく言葉が口に出来るようになった。
「目的はなんだ?」
堂々とした姿勢、黒い髪に黒い目、血で濡れた様な真っ赤な唇の女に俺はそう言った。
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