If?:触れ愛64
「いやぁぁあああああああ!」
街中に泣き叫ぶ女の声が聞こえる。それを聞きつけた人々は声のした場所へ駆け付けて、目にする。
裏通りに続く建物と建物の間の細い道。そこの壁を染める赤い飛沫、地面には赤い水たまりとそこに浮かぶ何か、そしてその水たまりの前で座り込み、顔を覆って泣き崩れる血まみれの女。
「おいアンタ、大丈夫か?」
野次馬が裏通りへと続く道の前に溜まり始める。心配の声を掛ける者もいる。が、赤い水たまりと女の元へとそれ以上近寄る者は居ない。
その内、野次馬の中の一人の青年が半ば周囲の『誰かが行け』という空気に押される形で、勇気を奮わせて声を掛ける。が、女は聞こえていないのか相も変わらず泣き続けたままだ。
「何が起きたんだい?ケガは?」
少しだけ、不安を胸に抱きながらも視線を動かさないで慎重に近付く。
「…が、…がいきなり………したの。あの人が、あの人が………」
辛うじて何かを言っているのが解った。
しかし、顔を覆って呼吸の荒い状態の人の言葉はこの距離では聞こえない。
「えぇっと……もう一度、ゆっくり、ハッキリ、お願い出来る?」
怖がらせないようにゆっくり、優しく尋ねつつ、半歩だけ、腰が引けたまま近付く。
「ユールがいきなり……したの。あの人がくれた……を使えば…………。」
話す…と言うより、呟いている?
「えっと……取り敢えず向こうに出ようか?
ここだと話し辛いし、着替えた方がいい。
さぁ、立てる?………………っ!」
手を恐る恐る伸ばそうとして、止まった。
考えたくはないが、解ってはいた事だが、あの赤い水たまりはつまり
何がそうなったかは知らない。が、あれの正体が穏便に牛か豚かはたまた別の家畜か何かがどういう訳かそうなっていて欲しい。
そして、目の前で泣き崩れている彼女はどう考えても、やっぱり関わりがある、だろう。
「 !」
「 。」
後ろを振り返って、視線で助けを求める。
すると、視線が合ったものが軒並み何処かに視線をやってしまい、誰とも顔が合わなくなった。
お前がやれという事だ。
「と、とりあえずここに居てもどうにもならないし、向こうの何処か座れる場所に行こう?」
正直、自分が一番ここに居たくない。
だから視線を外さないまま野次馬の向こう側を指し示す。
「…の方が良い。」
声がこちらに向けられた。
少なくともそう感じた。
「何の方が良いって言ったの?」
声を聴くためにと少し引けていた腰が前の方へ倒れる。
「一人よりもっと沢山の方が良いって言ったの。」
顔を覆っていた手が解かれ、女の全貌が明らかになる。
顔には幾何学模様の光が走り、それは手足へと伸びて脈打つ様に明滅していた。
「へ?」
いきなりで何が起きたか分からなかった。
女は目を見開いて、真正面を見ているようでどこも見ている様に見えなかった。
女は隙だらけの男に触れ、そのまま無関係だとばかりに対岸の火事を見ていた野次馬の方へと駆け、呆気にとられる野次馬にぶつかるのも気にせずそのまま無理矢理通り抜けていった。
「………へ?」
野次馬達を通り抜ける様子を見ていた
ニヤリと笑う女が野次馬を通り抜ける時、わざと両手を広げて野次馬にぶつかり押し広げていったところを。
そして、女が触れた者達に明確な変調が起きていることを。
「おい、アンタその光る入れ墨はどうしたんだ⁉」
情報過多で少しだけ考えがどこかへ行こうとしていた。
しかし、その一言と自分の視界の端に映った自分の腕を見て我に返る。
「何……これ?」
女が触れた野次馬の体には女と同じ幾何学模様が現れていた。
そして、女が触れた青年の体にもまた、同じく幾何学模様が現れていた。
それは無機質的に明滅していた。
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