If?:踏み躙られる正義の悪夢と号砲58
「あー……代わりの人形があれば売ってやらなくもないが……」
顎への一撃をスルーして露店商は濃紫のレンズを光らせた。
「逆さまになった『正義の味方の人形』なんてどう?
子どもに人気で損はしないと思うけど?」
そう言いながら私は予め用意しておいたメモを露店商に素早く渡す。
『正義の味方の人形』という言葉と渡されたメモに僅かに反応して、その後直ぐに表情を戻して、「…………いいねぇ、売ったよ。持ってきな。」
看板に付いている人形をもたもたと外し、こちらに渡して来た。
「まいどあり、またのお越しを。」
相変わらず視線の読めないまま、そう言った。
「今回が初めて、そして二度も無い。」
「……ハハ、全くその通り。それでは。」
渡された人形を握りしめ、代価を渡して、その場を後にした。
「センパイ!マッテクダサイヨー!ドコイクンッスカァー?」
後輩が後ろでコケた気がするけど、気にしない。
私は迷い無く渡された人形の首を捻る。
ブチブチと糸と
「チョッ……センパイ!ハトコノアレックスランドチャンニソレワタサナインスカ?」
慌てて後輩が駆けてくる。それをスルーして人形の頭部分、裂けた首から指を突っ込んで中身を確認する。こっちじゃない。
今度は人形の千切れた首の中に指を入れて背中の縫い目に沿って裂く。
「アレックスランドじゃなくてアレクサンドロ。しかも、私の再従兄弟にそんなのは居ない。」
「エ?ドーユーコトッスカ?」
首を傾げる後輩を横に、胴体の綿の中から目当てのモノを見つけた。
「後輩、ここからは気を張って、さもなきゃ死ぬ。」
綿の中から取り出したのは折り畳まれた紙片。
そこには幾つかの文字と地図が描いてあった。
向かった先は人通りの少ない入り組んだ路地。
建物が密集しているせいで昼間だというのに薄暗く、僅かに肌寒い。
この場所は『こちら側』ではあるけれど、『向こう側』とも近いし、人は寄り付かない。
「センパーイ、サッキッカラドコムカッテルンスカー?」
情報屋の情報は精度が高く、信頼出来る。
逆に言えば、危険が高いと思われる情報に従えばほぼ必ず危険に曝される。
これから向かう先には確実に危険が在る。
『最近裏界隈で妙なモノが流行っているらしくてよぉ、何でも有名な魔道具職人を使って作らせた武器らしい。
で、ここ最近裏も輪を掛けておっかねぇ事になってるもんで、ま、自衛手段として一つ物の試しで買おうと思ったんだよぉ。
誰だろうと先方は売ってくれるらしいが、金はキッチリ取る。で、その金スッて稼ごうと思って……このザマよぉ。』
先刻捕まえたトム=パトリーの犯行動機がソレだった。
私達は今、それを追いかけてここに来て居る。
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