If?:踏み躙られる正義の悪夢と号砲57


 『『タイカ』ワヨウイデキタカ』

 「あぁ、これで良いだろ、さっさと寄越せ。」

 『タリナイナ ナメルノモイイカゲンニシロ トイイタイトコロダガ マアイイダロウ オモウゾンブンツカエ ワガママニ ミガッテニ スキニ ダレニモキヲツカワズ アバレロ』

 「チッ…黙って聞いてりゃ、木偶人形が人間様に向かって舐めた口を利くなよな?え?」

 『アア キブンヲガイシタナラアヤマロウ スマナイ』

 「分かればいい。さて、やるとするか。へぇ、コイツは良いモノだ………………だがアイツは気に喰わねぇ、偉そうに商売しやがって、何様だってんだ。」


 『この体だとそれ程度なら容易く聞こえているんだよ。

 まぁ、派手に暴れるというのなら何でも構いはしない。その結果誰かが奪われようと、逆に君達が奪われようとも、それはそれで都合が良い。

 こちらは別に商売が目的では無いのだから。』

 「なぁおい、アンタだろ?最近この辺で面白いモン売ってくれるってのは。」

 『オモシロイモノカワワカラナイガ サイキンココデモノヲウッテイルノハジジツダ ナニカヨウカ』

 「あぁ、俺にそれを売ってくれないか」

 『イイダロウ 『タイカ』ヲヨコセ』




 表と裏は近しい。

 しかし、それでも、あくまで表と裏。それは変らない。

 永遠にその距離は縮まらないし、相対することも、一緒になることもない。

 でも、少なからず表は裏に、裏は表へと干渉する。

 故に、両面を行き来する者も当然居る。

 彼、彼女らは影の中に光を投げ入れて淡い虚ろな希望を作り出し、光の中に影を落として狂騒と混沌を生み出し、両方に大きな波紋をもたらす。

 『情報屋』

 彼、彼女らを私はそう呼んでいる。


 今巡回しているのは、治安が悪そうな、実際こちら側ではトップクラスに治安の悪い場所。

 人通りはまばらで、数少ない出会う人間は皆虚ろな目をしている。

 下水からの悪臭が漂い、時に破裂音、時に悲鳴、時に戻れない一線を越えてしまった矯声が暗闇から聞こえる。

 そんなところで怪しげな石ころ、気味の悪い色の糸束、薄汚れた生き物のミイラ、埃をかぶったボロの短剣を売っている、いかにもな怪しい露店商が居た。

 白髪混じりの絡まった長髪、あちこち擦りきれて汚れた服に濃い紫色の眼鏡という風体の男が、足が一本もげている椅子に器用に腰掛け、怪しい呪いの人形をくっ付けた看板を傍に立て掛けてくつろいでいた。

 「セセセセンパイ、サスガニココハマズクナイッスカ?ナンデマタコンナトコマワッテンデスカ?」

 怯える様に辺りをキョロキョロ見回す後輩を無視して露店商に話しかけた。

 「その品物、幾ら?」

 指差す先は怪しい品物郡……ではなく看板に付いている怪しい呪いの人形。

 「センパイサスガニソレハアクシュミジャナイッスカ?」

 後輩が引きつった顔でこちらを見たので頭を軽くひっぱたく。

 「そいつぁ売りもんじゃねぇ。ウチの看板だ。」

 露店商は眼鏡のせいで何処を見ているのか解らないが、こちらの問いに答える。

 「再従兄弟はとこのアレクサンドロが気に入りそうなの。それをあげたなら、靴を履いて家中を跳び跳ねて、靴を脱いで家の外に出て踊り回るくらいはしそう。」

 「センパイノハトコサン、モシカシテヤベーヤツジャナイッスカ!」

 顎に一撃、今度は本気で喰らわせた。

 アレクサンドロなんて知らないけど、腹が立った。

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