If?:『悪魔』と呼ばれる魔道具職人の最後の悪夢45
設計者の理念を読み解く。
それは設計の一つ一つの意味を理解し、何の為にその形、その材質、その機構なのかを知り、その上でより良い形にする上で必須事項だ。
何も知らずに、何も考えずに設計図通りの数値に作れば良い作品になる。とは言えない。
材質の表面はより滑らかにすべきか?それともそのままの方が良いか?
同じ材質でも産地が複数ある場合は何処の物が良いか?色合いは?塗装は?
指定されていない細部は?
何の為に使うか?使う時には如何いったものの方が便利なのか
無論、設計者に訊く事もあるが、それが出来ない事もある。その時、この設計図から設計者を理解する事は本当に重要になる。
追い掛け、明らかにしようと近付いて行く。
この追求の末に設計者と心が通う。
すると、完成したものは輝きを増す。
『よりエネルギー効率が良く』『より素早く動き出し』『より静かに』『より軽く』『より小さく』『より高速で』『より明瞭に』『より密閉性を高く』『より美しく』『より自然に』『より頑丈に』『より確実に』『誰であろうと』『誰でも』
頭の中に幾つも幾つも設計理念が流れ込んでいく。
何も考えずとも理解できてしまう。
より簡潔により確実により容易に理解出来るような理念。
相手が誰であれ理解できてしまうようなたった一つの理念。
『殺せるように』
設計者の能力は異常に高い。何を作っても他人が目を見張るものを作れるだろう。それは設計図の綿密さと創意工夫から見て取れる。
元からこれだけの技能を持っていたにしろ、努力の末に技能を得たにしろ、確実に天才鬼才人外の領域に在ると言える。
ここに描かれている全ての構造が殺意に集約されている。
才能の悉くを、殺人に込めている。
『よりエネルギー効率が良く殺せるように作る』『より素早く動き出し殺せるように作る』『より静かに殺せるように作る』『より軽く殺せるように作る』『より小さく殺せるように作る』『より高速で殺せるように作る』『より明瞭に殺せるように作る』『より密閉性を高く殺せるように作る』『より美しく殺せるように作る』『より自然に殺せるように作る』『より頑丈に殺せるように作る』『より確実に殺せるように作る』『誰であろうと殺せるように作る』『誰でも殺せるように作る』
思考を放棄しようとしても、目の前の作業に注視しようとしても、酷使されて血だらけの手の痛みに気を取られても、頭の中に明確な純粋な凄まじく狂気染みた冷酷な殺意が流れ込んでくる。
人間はここ迄人を殺す事に対して集約する事が出来るのだろうか?
狂ってる 壊れてる 異常だ 人間じゃない 惨い 吐き気がする
理解出来ないししたくない。それでも頭の中には殺意が流れ込む。
そして、今迄に無く最高の物を作らなければならない。
職人としてそれは在るべき行動すべき行動存在意義。
職人として在らねば子ども達と妻は助からない。
しかし、職人として、家族を守る者として行動すれば、自分は人殺しになる。
完成したものの行く末は作ったものには容易に想像出来る。
あれは悲劇を積み上げる。
それに自分は手を貸す………否、悲劇を作る張本人になる。
果たして自分は、子ども達と妻を救うために人を殺した事を、隠し通せるだろうか?
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