If?:破落戸と少女の最後の悪夢34


 裏通りを大人数で進んでいく。

 あちこちに人の気配は有れど、近寄る者、危害を加える者は無い。

 手紙を解読して現れた指定場所はこの先。

 少し目立つから、あまり宜しくは無いけど、今回の荷物は相当多く、重いらしいので仕方ありません。

 あちこちから向けられる視線をある程度警戒しながら奥へ奥へと暗闇を歩いていくと………


 ドン


 先頭を歩いていた私は、曲がり角から来た誰かにぶつかった。

 「!」「⁉」「?」「??」「ッ!」

 警戒はしていましたし、用心もしていました。文字通り命懸けなので。

 私は確かに変わりました。激変しました。

 それは目覚ましく成長を私にもたらしました。ただ、それでも私は世間知らずで弱いまま。

 未だにここで気を抜けば、私は『一巻の終わり』です。

 今のどなたかが、もしナイフを持っていたら、私は絶命していました。

 だから、私は細心の警戒をしていますし、皆さんも私の事を心配して下さっています。

 いつもであれば十二分に対応出来るのに、今回は全く反応出来ませんでした。

 まるで、気配が有りませんでした。

 まるで、死んでいる人間が動いているかの様に。

 「おい嬢ちゃん!」

 「気をつける!避ける!」

 「オイ、何処に眼を付けてんだ?」

 ぶつかった時の衝撃は大したものでは有りません。寧ろ、相手の方がよろめいたくらいです。

 ただ、私としては呆気に取られて動きが止まり、それを見た皆さんは動揺をして威嚇をして……………。

 それでも、その方はよろめいたまま、そのままの足取りで闇へと消えていきました。

 「大丈夫か?」

 顔を覗き込まれ、体中に傷が無いかを調べられる。

 心配、慈愛、恐怖、不安………………………。

 そうして、一通り調べられ、無事である事を確認された後、解放され、肩をガッチリと掴まれて……

 「お前も用心しろ。俺らも用心する。良いか、絶対油断するなよ。絶対に死ぬな!

 いいな?…………いいな⁉」

 凄い形相でした。

 私も蒼い顔をしていたでしょう。

 幸運にも、いいえ、不幸中の幸いにも相手に殺意や悪意が無かったから良かったものの、先程も言った通り、死んでいたかもしれないのですから………。

 「気をつけます。」

 皆で明るい太陽の元へ。

 それが私の目標。

 それがこれからの私の生きる意味。

 だからこそ、私は生きなくてはなりません。

 最期まで生きて、彼らが太陽の下で笑える様にしなくては…………。




 「到着です。」

 目の前には、冷たい石の建物に囲まれた夜空と暗い道。腐敗して淀んだ空気が漂う裏通りの何処にでも在る光景。

 「ここにか?」

 「エ?荷物運ぶんだよね?無いよね、荷物………。」

 「もーしかしてー、暗号、読―み間違えたー………とかぁー?」

 疑惑の眼差しが向けられます。

 けれど、今回の依頼は内容が内容なだけに運搬する荷物は隠されているだけで、示された場所はここで相違ないのです。

 壁際に寄って屈み、黒ずんだ壁を触り、探る。

 地下から漂う悪臭が強まり、手に纏わり付く汚れが不快ですが、それはこの際無視して探し続けます。

 確か、この辺に………………有りました。

 黒ずんだ壁を探る内に小さな凹みを見付けて、そこに指を掛けると………………


 ガコン


 何かが外れる音がして、私が触れていた黒い壁が揺れ動き始めたのです。




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