If?:破落戸と少女の最後の悪夢33

 先ず、私が両親と談笑し、2人を引き付ける。

 その間に誰か1人が私の部屋に忍び込んで待機。

 私が部屋に戻って合流。仕事の概要と集合場所を教えて貰い、家を抜け出したら別のルートで集合場所に向かう。

 これが、私達が落ち合う為に取る方法です。


 集合場所はその都度違うので、特定は難しく、予め罠を仕掛けて待ち伏せは困難。

 表通りに居る限り、裏通りの人間は私に対して下手な手出しは出来ない。

 迎え役は裏通りに精通していて撃退は易い、情報は持っていないから費用対効果として追う事は無い。

 お互いにとって得意な環境を活かすという具合です。


 厚い雲に覆われた通りを急ぎ足で、静かに、目的地へと確実に、進んでいきます。

 いつも見ている世界とは違う暗い世界。やはりこれは如何しても慣れません。

 太陽の中で見る光景と全く同じ。

 月光も無い冷たい、解らない光景は余りに未知。

 これに慣れる事は生涯無いでしょう。

 ですが、私はそれで良いと思っています。

 何故なら、私達がこれから慣れるべきは夜の冷たさよりも太陽の温かさなのですから。




 「遅くなりまして申し訳有りません。」

 所定の位置に到着。息を整えて頭を下げました。

 道中、真夜中であるにもかかわらず、人通りが何時もよりも少し多い場所が在った所為で回り道をする事になってしまったのです。

 「マー、問題無いでしょ。」

 「オイラ達もその辺の破落戸を避けて、今さっき来たばっかりだし、問題無い無い。」

 「人多い。面倒臭い。依頼成功率下がる。用心。」

 「それはいつもの事だろう。

 ほら首領ボス。依頼書だ。」

 そう言って差し出された手紙を手に取る。

 中には暗号で、運ぶべき物の在り処、運ぶ先、注意事項等が記されていた。

 一通り眼を通し、目を瞑り、自分の心音が手足までも揺らす感覚……………。

 相も変わらず、慣れる事は無い。

 逃げ出したいのは何時だって。

 それでも、私は決して逃げられない。逃げない。

 皆さんを陽の当たる場所へ。

 その為に、私は暗闇を歩むのです。

 心音は相変わらず手足を揺らします……けど。

 静かに息を吸いこんで、吐いて…………

 「皆さん、ボスからのご命令です。行きましょう。」


 二言。集合場所に居る部下に言ったのはそれだけ。

 覇気は無い、丁寧に、優しく、お願いするような二言。

 しかし、その言葉で部下仲間が極限まで緊張に満ち満ちたのが彼女には解った。

 破落戸崩れの愚連隊。

 見掛けは凶悪、中身も凶悪、薄汚れて…否、汚れ切った服装に使い込まれて錆び付いた凶器をぶら下げた正に烏合の衆のならず者。

 しかし、彼らは優しさを内側に秘め、闇の中で蠢き藻搔き、苦しみながらも、それでもなお太陽に向かおうとする者達だった。

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