If?:破落戸と少女の最後の悪夢28




 ミギー=シミラは裏の世界において腕っぷしは強くない方である。

 魔法に関しては直接相手を殺傷するような手法を持たない。魔力自体も然程多くない上に細やかな魔法の適正も無いから、複雑な魔法を組み立てて相手を技巧で圧倒するという手法も取り得ない。

 腕力も真っ向から殴り合えば絶対に死ぬ程虚弱だ。相手が『真っ向から殴り合う』という手法を取る段階で自信が有る事前提だから勿論、腕っぷしに自信の無い人間なら同じ様に答える人間は数多いるだろう。が、『苦し紛れに真っ向からの殴り合いになった場合でも、絶対に殴り殺される。』程の虚弱障子紙がミギー=シミラである。


 しかし、彼は裏の世界で巨大組織の実質ナンバー2として知られ、恐れられている。

 理由は簡単。彼は武力において絶望的弱者として有名だが、知力や統率力、交渉力や計算力において異常に秀でていたからだ。

 敵対組織の資金源たる違法生物の密輸に対抗する為に、特定生物にのみ感染する、ある程度人体にも害をもたらす病原体を都市にバラ撒き、警兵に敵対組織を壊滅させたことが有る。

 刺客に狙われた時は、刺客の情報を調べ上げ、懸賞金を懸け、裏の世界全体で刺客を殲滅した事が有る。

 虚弱な己を補う策謀で組織を巨大にし、のし上がって来た。

 故に裏社会の首領たるバドワール=ティックの信頼を勝ち取り、右腕となり、裏社会においても一目置かれる存在となった。

 冷静に、冷酷に、現状を分析、割り切ってより良い手段を選んで来たが故に、知られざる偉業は成された。


 そんな男は今回、少し計算が外れて驚いていた。


 小娘と破落戸の歪な集団。

 世間知らずの箱入り娘とその辺何処にでも居る破落戸共。

 足並みが揃わず仲違いの上破綻するのは時間の問題。

 ただ、最初の足並みを揃えようとする短期間に関しては『ガラクタよりは少しマシに役に立つだろう。』という目論見で使う事を決めた集団はしかし、自分の予想よりも使えたのである。

 雑用として如何でも良い類のを頼んだが、これが中々悪くない仕事をした。

 『短期で破綻する』という予想も外れ、数カ月間の退屈極まりない雑用をこなしていった。

 幾度か難易度の高い依頼をものは試しとぶつけてみたが、破綻せずに終わった。

 試しに、末端の地区を任せるとしよう。


 こうして、少女の狂気が、破落戸達の気まぐれが、徐々に徐々に、人生を変えていった。


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