If?:破落戸と少女の最後の悪夢27


 人の命が軽々しく散る風景が目に浮かび、心臓が誰かに握り潰されそうな気持ちになる中、

 ポン

 肩を叩かれました。

 「ああ、何時もの事だ。」

 「マ、そうだよね。」

 「あー、リザちゃんは吃驚してるっぽいね。

 オイラ達、何時もこんな感じだよ?」

 「…………」

 「命が危険は普通。命懸けはいつも。危険無いって言うのが一番危険。」

 「引き受ける。

 仕事はキッチリやってやる。失敗したら捨てて構わん。

 が、成功した時はキッチリ渡すモン渡せよ。」

 余裕綽々と言いたげな笑顔でフードの中へ視線を向ける皆様。


 「いいでしょう。では、今日は特に仕事は有りませんので、これで。」

 視線に対しては応えること無く、フードの方は去っていきました…………

 「さぁ、やるぞ。

 嬢ちゃん、恩返しするって言ったよな?」

 まだ心が騒めく中で皆さんは少し楽しそうな顔で私を囲みました。

 「リラーックスー。どうせこの界隈じゃ今みたいなのはいつもの事なんだから、気にしないで行こーう。」

 「表出る。飯食う。笑う。頑張ろう。」

 肩を優しく叩かれて思い出しました。

 そう、私も今、死に瀕して………本当なら死んだ筈なのに運良く生き残っているのです。




 あぁ、そうだ。

 私、死んだんだ。

 もう死んで、だから、もう私には躊躇う必要なんか無い。

 死んだんだから、死ぬ恐怖なんて、もう、要らないんだから。

 そうだ。

 何かが、壊れた。

 何かが、崩れた。

 吹っ切れた。抑え込んでいた何かが噴き出した。

 そうです、思いっ切りやりましょう。

 本来ならば死んだ私。今私は死んでいる筈。それが奇跡的に生きている。

 なら、私は奇跡彼らに報いましょう。

 本来は無い筈の命。存分に!豪快に!大胆に!使いましょう!



 リザ=テイルの表情が変わった。

 それまでそこに居たただの箱入り娘のお嬢様が消えた。

 否、箱入り娘のお嬢様は健在だ。しかし、それ迄のお嬢様は真面目で、勤勉で、皆から信頼を得る善なるお嬢様だった。

 しかし、今は違う。

 真面目で、勤勉で、皆から信頼を得る、狂気に充ちたお嬢様に成った。

 自分の命の恩に報いる為に、自身の持つ力を全力で、躊躇い無く振るうお嬢様。

 世間知らずではあるが、無能ではない。

 騙され易いが、交渉事が不得手な訳ではない。

 日向において振るわれた手腕は、何も両親の威光だけで出来たものではない(最初の信頼と言う点においてのみ、威光は使われた)。


 真面目で、勤勉で、能力の有る人間。

 それが、もし、手加減無く全力で後先考えずに狂気のままに一つの事に邁進した場合、どうなるか?



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