If?:気まぐれで変わった破落戸達の最後の悪夢15

 『マキナージの魔道具に釣られたアホなガキ』

 当時の私でもそれが誰なのかは解りました。

 『世間知らずな箱入り娘』しかも、『マキナージの魔道具を買い求めようという金持ちのお嬢様』。

 騙し易い上に金を持っているローリスクハイリターンな相手。

 今考えてみても、相当なカモだったのですね、私…………。

 ただ、今になって言えることが一つ。

 この人に捕まったのは最悪の状況どころか寧ろ、あの五月蝿い方に捕まったのは不幸中の幸い、だったと言えましょう。


 『騙して、裏通りに誘い出して、怪我もさせずに生け捕り。』


 後に私は教わりました。誘拐する場合、人質の生死を問う必要性は無いという事を。

 殺そうが、慰み者にして売り飛ばそうが、文字通り食肉にして食べてしまおうが、誘拐された段階で殺していないのであれば、身代金を払う側はそのまま生きている事前提で考えるから、要求時に死んでいても問題は無いのです。

 つまり、この段階で生きているのは愉快ファニー詐欺師プリテンダー・ディセンという方のきまぐれ、偶々猟奇殺人鬼ではなく愉快犯ならぬ愉快な誘拐犯であったが故にこの後の瞬間まで生き延びられたのです。

 最悪の事態であれば、裏通りに引きずり込まれた段階で首を折られるか、急所にナイフを突き立てられていてもおかしくは無かったのですから。

 ただ、当時の私はそんな事を一切知らず、自分の短い人生の中で経験したことが無い悪意、しかも、一度も経験の無かった誘拐と言う悪意に曝され、自分の五感全てが恐怖というフィルターを通している様に感じられていたのです。

 パニックでした。


 「ゆっかーい、ゆかーい、ユウカーイ!カカカカカカックククククククククク!

 お嬢さんは~、ゆかいな詐欺師にゆーかーい~。ヵカカカッカカカカカカカカアッカカカカカ!!

 詐欺師は売るか?食べるか?犯すか?如何するか?未だ決めてない~クッククククククククククククク!

 お父さんにもーお母さんにもー友達にもーあえなーいー、にどとー。クッカクッカクッカクッカクッカカカカカカカカカカカカカ!」


 捩じれ、狂気に充ちた、壊れた笑い声が、これから自分がされる酷い事を想像させてしまいます。

 真っ暗な視界が自分のこれから行く先の不明瞭さを暗示して心臓が早鐘を打ち、全身が心臓になった様で今にも壊れてしまいそう。

 自分を背負っている商人さん…改め詐欺師さんが触れる手が自分に何をするのかが解りません。痛い事でしょうか?

 先程までの耐え難い悪臭が口と鼻腔を侵していく感覚。それがそれ迄より強く、毒々しく、悍ましい感覚になった様に感じます。


 「モモモモ(助けて)………」

 誰にも聞こえる筈の無い助けを求める声。

 誰も助けてくれない心細さを如何にかする為に猿轡をされながら呟いたその一言。





 「ゆっかーい、ゆうかーい、ゆっかーい、ゆうかーい………」

 「うるせぇ、誘拐するならもっと静かにやれ。」

 バリンというグラスの割れる様な音と共に、動きが止まりました。

 「よぉ、嬢ちゃん。」

 知らない声が聞こえました。




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 有り難う、出オチキャラのディッセンさん、あなたの事は数話後迄忘れないかもしれないよ。

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