If3?:○○○○○○○にさよならを7
煤だらけ、焼け焦げた服を始末して、予め用意しておいた荷物を持って轍の間をゆっくりゆっくり歩く。
シェリー=モリアーティーは既に死んでいる。全てを諦め、これが私になった段階でもう既に彼女はもう二度とこの世界に証を残す事は無くなった。
が、今、シェリー=モリアーティーは真の意味で死んだ。
宿舎内、私の部屋にはものの見事に焼け焦げて歯形さえ確認出来なくなっている焼死体が一つ有る。
そこに焼け焦げて辛うじて誰のものか解る生徒手帳を置いておいた。
それを確認し、晴れて目出度くシェリー=モリアーティーは死ぬ。
誰もアレが偽物と気付く事は無いし、私を追いかける者も居ない。
犯行の証拠はもう灰にした。
伏魔殿は滅び、私は堂々とあのロクでも無い場所から卒業した訳だ。
ん?死体?
『死体を作るのは困難だ。』なんて馬鹿馬鹿しい事は言わないでくれ。
死体を偽装したければ背格好の似た人間を火事で焼いて頭を潰し、偽造したい対象の証になるものを燃え残る様に置いておけばいい。
この場合、井戸で死んで残しておいた死体を部屋に置き、私の生徒手帳を燃え残る様に見に付けさせて火を放つ。それで終わりだ。
わざわざ私が見つかる可能性を冒してまで死体を残していたのはこういう事だ。
邪魔者を殺して、殺人の証拠を焼いて始末しつつ、自分の偽造死体にも出来る。合理的だろう?
さぁ、もうこうなってしまっては、私は誰でも無い。
シェリー=モリアーティーは死んだ。
ジェームズ=モリアーティーという名前が頭の中で頭痛と共に走るが、確証は無い。
では、誰でも無い私は、自分の考えるままに動こう。
知識の全てを、憶えていない経験の全てを使い、己が考えた全てを実行しよう。
その結果、全てが壊れてもいい。
その結果、全てが泣いてもいい。
その結果、全てが狂ってもいい。
その結果、全てが悲劇で覆われてもいい。
その結果、全てが不幸で満たされてもいい。
その結果、全てが終わって無くなってもいい。
既に私は終わっているのだから。
「さて、終わり始めるか。
その障害が、無い事も解ってしまっているのだがね。」
退屈な終わりにせめてもの華を。
緋色の花々が散る中、終わらせ征こう。
「大丈夫ですか?」
ゆっくりと歩む私の後ろから車輪の音と共に青年の声が聞こえた。
「えぇ、お声掛けありがとう御座います。」
荷物を引き摺る様を見て、声を掛けたな。
「この辺りには街や宿屋は有りません。
揺れる馬車で良ければ、乗りますか?」
青年は馬車から降りるとこちらに手を差し伸べる。
行商人の手足は逞しく、タコが出来ていた。
炭で染めた様な厚手の洋服、懐は膨らみ、腰の袋も膨らんでいる。
「良いのですか?」
目を細めて相手を見る。それに対して笑って応える。
「勿論。では、荷物をお持ちしますよ。御婦人。」
皺だらけの手から、若人にとっては然程重くも無い荷物を受け取り、馬車に積む。
「有り難う御座いますね。」
老婆は若人の言葉に甘えて馬車に乗った。
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