If3?:○○○○○○○にさよならを3

 火事場の後始末をする時、俺はカモヤから昼飯をたかる事にしている。

 水で溶いた穀物粉に野菜と豆を入れて焼いた携帯食。

 普段なら物足りないが、火事場の後始末の時はそれを何だかんだで渡してくれるカモヤが天使に見えるくらい有難い。

 『肉の臭いがしない』そんな料理が有難い。

 火事によってはものの見事に炭化して、触れた瞬間炭が崩れ去るという悍ましい状況の遺体を見る時がある。

 でも、そんな料理に呪われた人が焼いたスペアリブみたいな状況は稀有だ。大概は焼け爛れて原型の解らなくなった、でもそれが何か察する事が出来てしまう顔や、辛うじて人間と解ってしまえる炭塊、煤が付いた死に際の顔を見せられる羽目になる。しかも、肉の焼ける匂いと一緒に………だ。

 その後で、おんなじ匂いのする様なものを誰が食べたいと思う?

 いままで見ていたものを思い出して食事を飲み込めるか?俺は『イケる!』と思った………初回だけな。

 空腹を体が訴えるが、それ以上に体が食物を拒否した。

 食おうと思っても胃が拒否する。食道が拒否する。口が拒否する。鼻が拒否する。食べ物を持つ手が拒否する。

 お陰で汚物を撒き散らさずには済んだよ。汚物になるモノが無かったからな………。

 二回目は初回の後悔を反省して止めたよ。飯を用意してこなかった。食えないのが目に見えていたから。

 そんな時だった。

 「食べる?」

 蒼い顔している俺を見て、自分の分の携帯食を渡してくれた。

 食べる気は無かったんだがよ、『何も食べないと倒れるよ?』って言ってな。断れなかった。

 …………食えたんだ。食えたんだよ。

 半分に割られた携帯食に手を伸ばせた。

 香りを嗅いで吐き気に襲われなかった。

 口に運んで、咀嚼が出来た。

 そして、飲み込めた。

 その後、相変わらず陰鬱な気分ではあったが、吐き出す事も無かったんだよ。



 肉が入っていない事もあったが、それだけじゃあの、不快極まりない、嫌悪する、怖気が体中を蟲の様に這い回る様な、この世界の忌むべき事柄全部を鍋に突っ込んで煮詰めた様な最低最悪な気分を払拭なんて出来やしない。そんな人間甘かないし、お気楽構造に出来ていない。

 最低最悪な気分は無論、胸の中をドロドロと這い回っていた。

 ただし、その中に一つだけ、光が在った。ってだけだ。



 「今日のメッシー!」

 胸の中で渦さえ巻かないドロドロを抱えながらも、空元気に目の前の陰鬱に立ち向かう。

 「またご飯持ってこなかったの?」

 「え?カモヤの分貰おうかなって思っててさ。有る?俺の分。」

 「二個あれば足りる?」

 「二人で?」

 「全部で4個持って来たよ。」

 「カモヤ、お前が主人公。お前がヒーロー。お前が善性世界代表だ。」

 焼けた腕を持っていない方の手でパチンと指を鳴らす。

 「…仕事するよ。そのブレスレット。リストに無かった?」

 カモヤは懐からリストを取り出して仕事モードになった。

 さて、やるか………。

 スイッチを入れて炭化した腕を観察し始めた。



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 黒銘菓より

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