If3?:理不尽な死は直ぐそこに有る

 灼けつく空気と黒く濁った視界。

 そんな中から誰かが走って来る。

 「!何者ですか?」

 教師の一人が驚いてそちらに意識を向ける。

 固まって騒いでいた生徒達が静かに口を閉ざした。

 「待ちなさい、確認します。貴方達は生徒の保護を。」

 黒煙の中を無防備に走り抜けようとする教師を手で制止する者が居た。

 手に持った鞭を器用に振るって黒煙だけを振り払う。ミス=フィアレディーだ。

 「助 え …て……助け、て、く っ……ださ、い。」

 煙の中から出て来たのは一人の少女。

 息も絶え絶え。声は擦れ、呂律も回っていない。顔はすすだらけで真っ黒。足はもつれて今にも倒れそうだ。

 「あーらー?逃げられた子が居たの~?」

 火炎に映える金髪をなびかせてルーネェがふらふらと歩いていく。

 「向こうで、生徒達が暴れて、混乱!怪我している人が殴って助けて!」

 人影を見て安心したのか、崩れる様にして地面に倒れ込む。

 余程不安だったのか、混乱して手元に在った鞭を力一杯握り、涙を浮かべて祈る様に叫んだ。

 「ルーネェ!ちょっと待って!

 もぅ!少しは警戒してよね!」

 無防備に近寄るルーネェ。

 こんな状況でここまで呑気なのはこの娘くらいだろう。

 無防備。不用心。だけど、だからこそ嫌いになれない。

 悪意無く、策略無く、無邪気に。



 故に後悔した。

 次の瞬間、崩れ落ちた少女が急に立ち上がり、ルーネェの脇をすり抜けて生徒と職員の群に突進していく。

 駆け抜けていく最中、手の中に何か輝くものが在った気がした。

 私の脇もすり抜けて奥へと進んでいったのが解った。

 (「ルーネェ、大丈夫?」)

 ルーネェを心配して声を掛けようとしたけど、出来なかった。

 傍に駆け寄ろうとして、足の力が抜けていく。

 (「あ れ?」)

 ルーネェが崩れ落ちるのが見えて…………………………………………………………………………………………………………………………………


 それ以上は見えなかった。

 私の視界は真っ赤な火炎から、何の光も影も無い暗闇になった。




 すり抜けつつ針で一刺。

 それで人間の全機能は停止させる事が出来る。

 これから先に在ったであろう幸せな出会い。

 これから先に在ったであろう未知の出会い。

 これから先に在ったであろう不幸な出会い。

 これから先に在ったであろう狂気の出会い。

 これから先に在ったであろう驚きの出会い。

 これから先に在ったであろう穏やかな出会い。

 これから先に在ったであろう悲しい出会い。

 これから先に在ったであろう怒るべき出会い。

 これから遥か先に在ったであろう…人生の終わり。


 その全てが終わっていく。

 失われていく。

 永遠に、決して取り戻せない最期をもたらす。

 予期せず、望みもしない凄惨な最期を強制する。

 そして、それを看取る者は誰も居ない。


 「あなた……何をしたのですか⁉」

 眼の奥が異常に光り輝き、警戒心と闘争心を向けたミス=フィアレディー。

 彼女は死体を後にゆっくり歩む私にそう訊ねた。

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