If3?:恐怖の淑女VS純悪の教授
「あなたは……何をしたのですか!?」
眼の奥が異常に光り輝き、警戒心と闘争心を向けたミス=フィアレディー。
今までの冷酷で厳格な鋭さとは明らかに違う。こちらを教育する対象ではなく、敵対者と認識しているのがよく解る。
彼女は死体を後にゆっくり歩む私の動きの全てを観察、警戒してそう訊ねた。
『訊ねる』と言うのは、些か弱過ぎる表現かね?
宿舎を焦がす火が一層強くなる。
吸い込む空気が肺と喉を焼き、肌を刺し、思考を鈍らせる。
轟々と、業々と、炎が断末魔の叫びをあげ、影が揺れる。
最早生きているのはこの二人だけ。
「何をしたか?見てお解りになりませんか?
殺したのですよ。」
こちらに向ける視線がより一層鋭く、そして、静かな怒りを向けてきた。
鞭を持つ手に力が入り、僅かに鞭が揺れる。
距離、2.234m。
「………」
「怪物を見る目…とでも言えば良いのですかね?
何故私はそんな目を向けられるのでしょうかね?
散々虐げられ、散々踏み躙られ、散々蔑まれ、散々妬まれ、散々憎まれ、散々痛めつけられ…………私が怪物だというのであればここに居たもの達は何なのでしょうね?
悍ましい、浅ましい怪物だったものは今、ここに転がっていますよ。」
「………………」
手に握りしめた鞭を構え、こちらの隙を伺っている。
油断していた連中とは違う。教師として明らかに不要な荒事の心得。
一切口を開かない。
怒っていない訳ではない。
言いたい事が無いわけでも、論破されている訳でも無い。
しかし、
隙を見せたら私が殺す事を知っている。
集中力を途切れさせれば死ぬと解っている。
鞭を取り落とせば命は無いと解っている。
下手に動けば取り返しがつかないと解っている。
だから、口を開かない。開けない。
「まぁ、相手が怪物でも人間でも構いません。
理由は簡単。私の邪魔だから殺しただけです。
殺す事に大した理由なぞ有りません。」
その言葉が切っ掛けだった。
燃える宿舎を迷い無く駆ける。
距離、2.234m。こちらの手持ちは前に使った毒針と手の平に収まる小さなナイフのみ。宿舎の狭い廊下において逃げ場は無い。自ら逃げ込めた筈の部屋は潰した。
相手は鞭を持っていて、油断も隙も潰しに来ている。
幾ら私でも素手で鞭を相手にする気にはなれない。
私の皮膚は鋼鉄で出来ていない。
私の五感は人間並みのスペックしかない。
魔法?知ったのはつい最近の事だ。並以下どころか0という認識で構わない。
ハッハハハハハハハハハハハ!頭を抱えるべきなのだろうな!
焼ける地面を蹴り、炎と熱風の中を真っ直ぐ駆けだした。
手の中に針とナイフを輝かせ、真っ直ぐ、フィアレディーへと向かう。
私が一歩動く前に、フィアレディーの鞭は既に動いていた。
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