If3?:狂気と凶器の頭脳


 雰囲気が最悪だ。

 この学園に来てからルーネェという例外を除いて清々しい雰囲気なんて感じた事は無い。

 誰もが誰かをおとしいれ、たばかり、はずかしめ、自分だけが上へ立って高笑いしようとする事が日常な、こんな蟲毒こどくの学園に清々しさなんて在るわけがない。。


 何も知らずにこの学園やそこにいる者を見た人はこう言うだろう。『豪華絢爛』『花鳥風月の如し』『雪月花』『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』『容姿端麗』…………。

 しかし、見た訳でなく、感じた人間はここが毒と策謀渦巻く伏魔殿だと知っている。

 そこにいる連中がロクでもないと知っている。

 だから、人の敵意なんていつも感じている。

 人の悪意なんて向けるのにも向けられるのにも馴れている。

 でも、今は違う。

 今私が感じているのは、敵意とか、悪意なんて生易しいものじゃない。

 もっと悍ましい、恐ろしい、怖いものが渦巻いている。

 それもそうだろう。

 あれから立て続けに毒殺未遂が12件も起きた。

 朝食を取れなかった者達の為に、職員が総出でそれぞれの部屋に簡易的な食事を配った後に起こった事だ。

 教員の一部が同じものを先に食べ、身体に変化は見られなかった。毒見は十分になされていた。

 だから配られた。にも関わらず、あちこちで食堂の時と同じ症状が起きた。

 噂だと、教職員は未だにどこで毒が盛られたか解っていないらしい。

 どころか、今、この学園では『職員達が毒を盛った』と考えている者も居るらしい。


 当然だ。


 侵入者は見つからない。でも、武装した剣術の教鞭を取っていた教師と生徒二人が殺されている。

 もし、侵入者は居なくて、同僚や教師が不意打ちをしたとすれば、最初の事件の辻褄は合う。

 毒の混入経路が解っていない。けど、確実に被害者が出ていることもそうだ。

 探す側の教師が毒を盛ってしまえば、毒の混入経路を隠蔽することが出来る。

 今回の食事も、毒見をした筈なのに毒が入っていた。

 食事を配った職員なら、確実に毒を入れられる。


 生徒は元々信じられない。

 教師も最早信じられない。

 何も信じられない。

 そんな状態は勿論長くは続かなかった。


 「ただいまより、持ち物検査を始めます。

 拒否は許しません。もしそんなことをした場合は犯人と見なしますからそのつもりで。」

 隣の部屋の方からそんな声が聞こえてくる。

 ついに教師陣は不審人物を見付けられなかったのだろう。

 そうしたら次に疑われるのは私達生徒。

 強行手段だ。



 人間は集団で社会を形成する生き物だ。

 社会は人同士を繋げ、効率よく動かし、一人の人の一生では到底産み出せないものを産み出す。

 これこそが人間の繋がり、人間の強さ、そして、致命的な脆さである。

 人同士が繋がるが故に軋轢が生まれ、疑心が生まれ、それは繋がりを通して社会全体に拡がる。

 毒が全身に回るように、確実に、そして時に苛烈に、社会を崩壊させる。

 最早私がやることは殆ど無い。

 不安を煽るまでもなく、人間は勝手に不安を煽り合い、攻撃し合う。

 私はナイフ一本握らずに、殺人を犯せるわけだ。

 まぁ、ナイフなんて持って来やしなかったが、それなりに仕掛けはした。

 宿舎に生徒と教師が全員揃った。

 ならば、一度に始末出来る方法を、仕掛けておくさ。

 ああ、そんな事を考えている内に、近くで号砲爆発音が鳴り響いた。

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