If2:敵にならない者達


 「憶えていなさいこの下民がッ!次はタダじゃ済まなくてよ!」

 ナクッテナクッテと呪文の様に言っていた小娘が担架の上で騒ぎ立てる。

 此方から全身打ち身とスリ傷だらけにされたというのに………タダじゃ済まないとは面白い表現をするものだ。

 「再戦を!また戦おう!今度は騎士道に則った戦いを望む!」

 騎士面をした小娘も騒ぎ立てている。

 目潰しや蹴りをしながら叩きのめした事が余程お気に召さない様だ。

 実戦方式で戦いたいと君が抜かしたからこそ、私は武術、目潰し、その他諸々を使って叩き潰したというのに、その言葉を口にした小娘の眼には怒りと屈辱、憎しみが渦を巻いていた。

 口では騎士道だ何だと言ってはいるが、世間知らずのお嬢様が自慢のパパが口にしている『騎士道』と言う言葉に憧れただけ。

 その挙句、単なる自身の敗北を『騎士道を侮辱された』と誇大誇張。


 嗚呼、勘違いだ。


 騎士道や極東の武士道。

 それらに尊さや高貴さは無い。

 冷静に考えたまえ。騎士や武士が行う事は『戦』、つまり『戦争』。『殺し合い』の別名だ。

 殺し合いに優雅さや名誉や高貴さ、或いは栄光や意味なんて笑えるシロモノ、有る訳が無いだろう?

 人の命を奪う血塗られた行動に正当な意味や必要性なんて無い。

 私が古井戸に沈める事と騎士や武士のやる事に何ら変わりはない。

 それは殺人だ。全く同じ、殺人だ。

 それを騎士道だ何だと、烏滸がましい。

 そもそも騎士でもなんでもないごっこ遊びがほざくなと言う話だ。

 「身分を……ミ分を弁えろ。

 根性を、その腐りきった性根を………この私に逆らった事を後悔…………。」

 教師が血塗れになりながらうわ言の様に呟く。

 身分?根性?弁える?

 馬鹿かね?これが教師かね?

 嗚呼、そう言えばこういうものか………。

 学問に身分の差など無い。人類史の知恵が最も優れている点は『誰であろうとそれを使いこなし、継承し、更により良いものに出来る』と言う所だ。

 奴隷だろうが王だろうが関係無い。

 知恵を鱈腹詰め込めば私と同じ事が出来る。

 ミツバチの女王と同じだ。

 生まれは全く同じ。しかし、王台でローヤルゼリーを貪れば女王になり、貪らねば働きバチ。

 貪れば誰もが女王になれる。それが知恵。学問。

 人の知恵とミツバチのローヤルゼリーが違うのは、蜂は貪れるのは一人に対して人は誰もが貪り尽くせる点だ。

 身分もへったくれもそこには無い。知恵は人に平等に与える。

 ………まぁ、学問を受ける為に金が必要になるから、そこは不平等だがね。


 根性だ性根だと抜かすが、根性論になんの意味がある?

 手足を切り取られ、首を捩じ切られて何が出来る?

 根性が有ればそれでも私に牙を突き付けられるか?

 ならば試してみよう。


 この私に向かって来た事、後悔させてやろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る