If2:悪網恢恢緻にして全てを奪う
三人で軽く遊んだ結果、私がどうなったか?
先ず、騒ぎを聞いたミス=フィアレディーがやって来た。
事情はギャラリーの騒ぎ方と状況で察したのか、運ばれた脳筋教師失格の代わりに混乱して滞った授業をフィアレディーが取り仕切る事になり、殆どの生徒は教室に戻されて剣術の教科書の熟読をする事となった。
殆ど……と言うのは、教室に戻されなかった者も居たという事。そう、私だ。
「如何なる理由が有れど、凶器を以て人を害した事は事実。
情状酌量の余地は御座いません。何か、異論は御座いますか?」
凄まじい眼光と殺意染みたものを向けられた私は大人しく「いいえ、異論は御座いません。処罰は甘んじて受ける所存です。」と言っておいた。
私は結局、『剣術の授業の邪魔をした』という事になり、剣術の授業の後片付けと倉庫の整理を言い渡された。
お咎めとして軽いのは、状況から三対一である事、しかも相手から手を出して来た事、教師があろうことか自分から手を出した挙句負けた事が要因だな。
それはそれとして、私が怪我をさせたという事に変わりは無いから形式上罰した………と言ったところだ。
更に言えば、緊急避難という面も大きいな。
もし、私がこのまま教科書のまとめ……と言う名の自習をしていたら、監督も無し、無法状態のまま私はそこで拘束される訳だ。
先刻まであれだけ目立つ行いをして貴族や騎士の連中にとっては面白くあるまい?狙い撃ちにされるさ!
木剣は無いが、言葉と視線は突き刺さる。
剣術なら一対一、多くても今回の様に三対一だが、
そんな状況を避ける為にも私はこうして今、倉庫の掃除をやらされている訳だ…………。
全く、気の使える教師だよ。
「まぁ、それも直ぐ無意味になるのだがね。」
木剣や鉄球を車輪付きの籠で運びながら呟いた。
日光が射しこんでいるが、倉庫は薄暗く、黴の臭いが鼻に付く。
「全く、作っておいて良かったとつくづく思う。」
そう言いながら懐から霧吹き付きの壜を取り出して、黴臭い倉庫にそれを撒く。
シュゥシュゥという音と共に、黴臭い部屋に目が醒める様な刺激臭が漂い始める。
以前行った古井戸。その傍には幾つか役に立つ物が有った。
指先で摘まんでも手に付かない蜘蛛の糸、強力な色素を含んだ植物、強烈に甘い蜜を創り出す花に猛毒の蜜を創り出す花に水に溶けにくい蜜を創り出す花…………。
その中には刺激性の、しかしいい香りの香草が有ったので、手持ちのアルコールと併せて香水を作っておいた。
「にしても、これを片付けるのは骨が折れる。」
木剣、鉄剣、木製の盾、縄、ハードル、鉄球、跳び箱、ボール……………
まぁ色々とあるものだ。
だが、『蝶よ花よ』と育てられたお嬢様が真面目にやる事は無いのだろう、そこら中の道具や設備が埃だらけで正直宝の持ち腐れだ。剣だけはあの脳筋教師の所為か、埃が少なく綺麗で…………おやおやおやおや。
片付けの際に見付けたものは、私が未来に行う行動を確信させた。
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