恐怖の淑女の処分



 「あなた達が行ったのは、人質となった時に他者を生贄にして自分だけ助かろうとしたこと。それが退学の理由です。

 それの何処が淑女であると?『他者の命を生贄に自分を守る』その見苦しい行動がこの学園に所属する者として相応しいとでも?

 恥を知りなさい。

 最早あなた達にここに居る資格は有りません。」

 フィアレディーはぴしゃりと反論を返り討ちにする。

 「待って下さい。何のことですか?

 私達は単に人質にされていただけ。今の話では、私達がまるでシェリーさんを人質に仕立て上げた様に聞こえますが?」

 レッドラインが何食わぬ顔でフィアレディーに返す。

 「違いますか?」

 「えぇ、どなたが申し上げたのか存じ上げませんが、言いがかりも良い所です。

 一体どなたがその様な事を仰ったのですか?」

 「一人除いて全員です。」

 「……………はい?」

 「あの教室に居た人間に調査を行ったところ、ほぼ全員が、あなた方が何をしたか説明してくれました。

 全員、証言の仔細は違いましたが、概ね同じ。

 もし、全員が虚偽を伝えたのであれば、私は然るべき措置を取らねばなりませんね。」

 眼光がより鋭く、より冷たく、氷で出来たナイフを心臓に突き立てるように容赦無く、最後の質問をした。

 「もう一度訊きます。

 彼女が人質になったのは、あなた達が推薦したから。

 それは、事実ですか?」

 嘘は許されない。

 ここで少しでも隠し立てすれば確実に彼女はその報いを受けさせるだろうと誰もが思う。

 『淑女に相応しく無い者にこの場に留まる資格無し。淑女に相応しく無い行動には制裁を。』

 最早、逃げ道は無い。

 「「「「「……………私達が、やりました。」」」」」

 全員が観念した。





 5人が退学になった件において、シェリー君は、どころか私も、何の手も打っていない。

 我々は彼女達がやったと自分からは一言も言っていない。

 当然だろう?そんな事をすれば報復と言って面倒な方法で我々を狙って来る。

 潰すのは容易いが、証拠隠滅やら後始末やらが面倒だ。

 と、いうことで、我々は何もしなかった。

 じゃぁ、誰が連中を攻撃したか?

 あの場。立て籠もり事件でシェリー君が人質になった瞬間を見た5人と我々以外の連中が5人の事を密告したからだ。

 何度も言うが、ここの連中は互いに互いを蹴落とし合おうとしている。

 シェリー君に対する悪意は見下すが故の悪意。だが、他の連中に対しても邪魔者故の悪意を持っている。

 そんな連中が『表向き同じ学園の生徒を立て籠もり犯の生贄にした』という状況を目撃すれば………当然陥れるネタにするさ。

 邪魔者を消す為にその他大勢の見殺し勢は我々を良い様に使った…と言う訳だ。

 そして、5人に関しては、『シェリー君が死んでいたら有耶無耶にする事が出来るからとタカを括ったのが間違いだった』と言う他無いね。


 残念ながら幾人もの証言が有り、言質を取る為にミスフィアレディーが事件の後、お忍びでシェリー君の部屋までやって来て訊きに来たよ。

 「貴女は何故人質になったのかを訊いていませんでした。

 貴女は率先して人質になったのですか?それとも、立て籠もり犯…と身分を偽っていた方が選んだのですか?

 それとも………誰かが貴女を人質にしたのですか?

 嘘偽りなく、述べなさい。」

 「何故人質になったか…それは……………」

 シェリー君はそこで正直にあった事を話し、恐怖の淑女はそれを聞くと直ぐに部屋から出て行ったよ。

 ま、と言う訳で、彼女らは既に孤立無援。どころか四面楚歌。最早詰みとなって呆気無く退学処分となった訳だ。


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