狙いは必中。ならば如何様にも出来る。
「皆さん、今頃どうしているでしょうか?」
新しい、しかし、予算を抑えた所為で品質の悪い木材が目に付くシェリー君の部屋でそんな心配の声が漏れ出た。
「敢えて自分から此方の指示を無視していない限りはあの狂獣相手に立ち回っている頃合いだ。
心配せずとも対策は取ってある。
そして、その対策が確実に奴を仕留められるという確信も有る。だろう?」
「それはそうですが…………。
あの体格にあの大きさの大剣と鎧。明らかに好戦的な会話。
あれだけの膂力を持っている以上、真っ向から立ち向かえば勝ち目は有りません、それに…」
「計算を尽くした。最早手を加える事は出来ない。
後は解が出るのを待つだけだ。
まぁ、どんなに短くとも数週間~数カ月は掛かるだろうが、諦めて、座して待ちたまえ。」
「はい………。」
項垂れるシェリー君。
全く、学園の空気に毒されて自尊心が無かったが、それが未だ抜けていない様だ。
過信は簡単に人を殺せる。軍人であれ学者であれ、少し調子に乗せればあっという間に自爆してくれる。
が、自己不信も簡単に人を殺す。
自身を軽んじ、信じず、その結果自分の行動は自尊心に見合ったものとなって堕ちていく。
それは完全犯罪を行う上でデメリットだ。何せおどおどした人間は真っ先に注目されるからね。
まぁ、何より………だ。シェリー君の精神衛生上それは即刻止めるべきだ。
「自身を持て。
胸を張れ。
私が教鞭を取り、それを実践してきたのだ。
彼らは遠くで闘い、勝つ。
我々も、ここで相も変わらず勝ち、当然に蹂躙するぞ。」
最早彼らは彼らで闘う他無い。手段は教えた。道具も渡した。人も在る。
ならば、座して待つ以上の事は出来ない。
パンパンパンパン!
蒸気が立ち昇り、爆音と共に凶弾が放たれる。
ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!
全て追跡者の鎧に命中。しかし、その足は止まらない。
「ふざけてるんじゃねぇぞぉ!なんだその豆鉄砲はぁ⁉」
虫でも払う様に弾丸を弾き飛ばし、意に介す様子も、傷を負った様子もない。
どころか殺意を漲らせて馬車に近付いてくる。
「おいおいおいおい、一応対人殺傷レベルの弾丸だぞ?
鎧があるとはいえ、頭に銃弾の衝撃喰らって何で走れるんだ?」
「魔法じゃ無いんすか?」
「馬鹿。ウィリアムを防ぐ魔法使いながら体をあんだけ強化するなんて直ぐガス欠するだろうが。
ありゃぁ単に頑丈な奴が筋力の強化魔法をアホみたいに使ってるだけだ。
でなけりゃ、あんな得物振り回しながら馬車追うなんて芸当出来ねぇよ。」
タネは解ったとはいえ、厄介な事は変わり無い。
無策で走っていたら文字通り時間の問題だっただろう。
「あの嬢ちゃん、エグイ真似考えるな………。」
呆れながら次弾を装填する。
鎧は全身を覆い、隙間をすり抜けて弾丸を通すなんて真似、そもそも相手が動かず、日中の視界が良い状況ても出来やしない。
しかし、それでも問題無いとあの嬢ちゃんは言った。
鎧程度で全てを防ぐ事など出来はしない。その過信はむしろ付け込む隙であるとまで抜かしていた。
「末恐しい嬢ちゃんだねぇ。
ま、雇われ甲斐があるってもんだ。」
バン!
蒸気、爆音と共に空気を斬る凶弾。
狙うのは心臓、否。
狙うのは肺、否。
狙うのは脳天、否。
狙うのは鳩尾、否。
足。
正確には上げた足の膝。鎧の関節部分の隙間を狙った。
ガキッ!
金属がひしゃげる様な厭な音がして、追跡者の体が宙に浮く。
「ぬぉッ!ヤッロォオオオオオオオオオオオ!」
鎧の関節部分は動く時、どうしても隙間が出来る。
と、言っても、弾丸が入る様な隙間では無い。
しかし、弾丸が挟まる余地は有る。
そこを的確に狙い、鎧が曲がらなくなれば、鎧を着こんでいる人間は馬車の速度で転げる事になる。
腕を振り回し、バランスを取ろうとするも失敗。
地面に受け身も取らずに叩き付けられる。
「クソがぁあああああぁぁぁああああああああァァァァァァァァァァァァァ…………」
後方で、ガチャンガシャンと凄まじい金属音を立てながら追跡者は転がり消えていった。
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