教授の講義二本立てのお時間だ。
今頃、追跡者達は驚く間も無く馬車を破壊されて引っくり返っている頃合いだ。
閃光と音響では馬車の足止めにならないと……思っていたかね?
あぁ、音響と閃光だけでは何の足止めにもならない。それは事実だが、少し間違っている。
私がたかが騎兵を潰すためだけに火薬まで持ち出す訳がない。
言っただろう、学園を出る前にこちらの仕掛けは終えていたのだよ。
これで連中は追跡の為の馬車を失った。
「イッテてて…何が起こったんだ?」
馬車から投げ出された人々が呻き声をあげている。
周りを見渡すと、あの奇妙な連中を追いかけていた馬車が壊れて、薙ぎ倒されたように地面に転がっていた。
しかも、全て。
一台二台ではない。追いかけていた馬車全てが同時に壊れたのだ。
「おい…なんか焦げ臭く無いか?」「オイ!火が出てるぞ!」「消せ消せ!」「ドレッド様!ドレッド様は何処に⁉」
馬車から僅かに火の手と煙が上がり出し、どの家の人間も半分以上パニックを起こしていた。
「どういう事だコレ?」
手に持っていたボーガンが火に照らされて、その惨憺たる姿を曝す。
金属製の杭がボーガンに刺さり、的確に、そして無残に破壊されていた。
「どういう事だこれ!」
真夜中、真っ暗闇の中でも正確に相手の武器を狙う方法がこの世には有る。
馬車だけでなく、車輪と言う機構が存在するモノは簡単に時限方式でしかも確実かつ的確に破壊する方法がある。
ここで講義の始まりだ。
《教授の完全犯罪クッキング 狙撃編》
と言っても、コレは簡単だ。
若い方の傭兵が投げつけたのはリン。要は火が無くとも光る物質だ。
その粉末を空中にバラ撒き、後方馬車の連中に浴びせかけて、その姿を僅かな月光の中でも視認出来るようにした。
何かね?『そんなに光ってしまっては相手が気付いて距離を取る?バレる?』
無いよ。彼らは先程の閃光で目が馴れてしまっている。
一度強い光を浴びた後に暗い場所へ行くと中々見えないだろう?
人間は明るい所から暗い所へ行く際、暗い所から明るい所へ行く際よりも目が馴れなくなる。
閃光の際、こちら側は目と耳を塞ぐ様に言っておいたのは、この馴れのリセットを防ぐ為
お陰で同盟の連中は月光で馬車がある程度見えた上に蛍光塗料で的確に的を射抜け、対する馬車の連中は同盟を視認できなかった訳だ。
さて、次の講義は、
《教授の完全犯罪クッキング 馬車破壊編》
先ず、火薬を準備します。
これは粘度の様に何かに付ける事が出来、かつ、ある程度の刺激で爆発するようなモノが望ましい。
これを馬車の車軸の真ん中部分に仕掛ける。
車軸部分は車輪に比べて目に付き辛く、壊れれば確実に動きが止まる。
その火薬を仕掛けた部分に細い糸を取り付け、反対側の糸の端に小石を付ける。
あとは馬車が走り出すのを待つだけ。
糸は車軸の回転で巻き取られ、巻取り終わると小石が車軸の火薬に巻取りの勢いのままぶつかり衝撃で爆発する……と言う訳だ。
ん?小石が巻き取られる際の音は如何するか?
だからこその大きな音だよ。
先程の音は、後方の馬車の人間にとっては聴覚を破壊するまでの威力は無い。
が、それでも僅かな音に反応出来なくなる程度には、音に対する感覚が馴化によって鈍くなる。
こうして、予め計算された時間に糸は巻き取られて車軸を爆破。足止めをした訳だ。
さて、これで逃走かんりょ………
「逃ぃげんなぁぁぁぁぁぁあああああ!」
同盟の後方から獣の如き声が響く。
蛍光塗料に照らされたその姿は恐ろしいものだった。
人間とは思い難い巨体に大きな角、走り方は乱雑だが、確実に馬車に近付いて来ている。
「ジャリスさん!どうしましょう⁉俺達この辺の変な化物を怒らせたんッスか⁉」
「よく見ろ馬鹿。ありゃぁ一応人だ。」
ジャリスの眼には人の身の丈程もある大剣を持った鎧姿の大男が見えていた。
「あれが要注意人物のレッドライン家のドレッド……か。」
ジャリスはウィリアムに弾を装填して狙いを定めた。
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