12分22秒

 馬車の追撃が開始されているな。

 まぁ、此方から指示はした。準備も仕掛けも終えた。

 そして、我々は付き添いをする訳には行かない。

 後は同盟の連中が巧くやるか否か。それだけだ。


 と、こんな回想をして居るが、今、シェリー君は職員棟でフィアレディーからの質問責めにあっていた。

 「貴女が人質になってからの事をお話しなさい。」

 「はい………先ず…人質になって直ぐに、彼らの身分を明かされて、協力を求められました…。

 断ろうにも、状況が状況。更に言えば、万一不正が有った場合、それを正すのは淑女の義務かと思いましたので、申し出を受けました。」

 「結果、学長室の隠し扉を見つけて、不正な金品を見つけたと?」

 「えぇっと…はい、詳しい事は解りません…。何分皆様方がそういった機密事項…?のようなものは見せない様に極力気を使って下さったので、存じ上げませんが、最終的に、彼等の探していた物品を見付けたと聞いております。」

 「協力をしたそうですが?」

 「『人質を演じる』というだけで良かったそうで、特別何かをしたと言うことは御座いませんでした。

 間取りが殆ど変わっていなかったとは言え、新校舎に足を踏み入れたのは今日が初めて……戸惑ってしまいまして…。

 対して、皆様はある程度間取りを把握されていたようで、私は道案内すらなりませんでした。」

 不自然にならない程度に相手の質問に合わせて自然な回答を続ける。

 用意していた答えを口にすると言うよりも、その場で考えて絞り出した様に、少しだけたどたどしく答える。

 流石に、当初は人質として拐われていた人間がハキハキその時の事を詳細に話したら、明らかにおかしいだろう?

 と、言うことで。ある程度都合の悪い……ゲフンゲフン!知らなくとも良い事は時間短縮のために端折って、都合良く……もとい、うっかり伝え忘れたりして説明をする事となった。

 ん?真実を捻じ曲げるな?シェリー君に嘘を吐かせるな?だって?

 おいおい、馬鹿な事を言うのは止したまえよ。シェリー君は真実しか言っていないだろう?

 先程、学長先生の不正を発見して、本人を拘束した人達がそう言っただろう?

 貴族連中もそれに納得しただろう?

 ならば、それは間違いなく真実だ。

 温い事は言いっこ無しだ。真実なぞ自分の好きに隠蔽・工作・捏造クリエイト出来る。

 本当の事が真実では無く、信じさせた事、認められた事が真実だ。温い事は言ってはいけないよ。


  だから、『シェリー君はまぁ可哀そうに人質の演技をさせられて一日中不正を暴く為に軟禁されていた。』・『シェリー君は彼らに重要な事を知らせて貰えず、貴族連中が知っていること以上の事は何も知らぬまま、解放された。』

 それが真実。

 たとえ、外での追いかけっこの結果がこちらの勝利であっても、貴族連中がむざむざ金品を持ち逃げされても、我々に矛先を向けたり、ちょっかいを出す事は許されない。

 何故なら………。

 「解りました。今日はもう遅いのでこれまでです。

 また何か有った場合、こちらから呼び出しますので、そのつもりで今日はもう休むように。

 尚、必要以上にこの件について吹聴しない様に。

 生徒達には私から追って説明しますので。そのつもりでいるように。」

 この恐怖の淑女がこの学園内でそんなちょっかいを許すと思うかね?

 無い。この淑女は良くも悪くもこの学園の機構。つまりはシステムの一部だ。

 バグは何であれ、この学園内に居ては叩き潰す。

 「畏まりました。」

 お辞儀をしてその場から去ろうとする。

 「あぁ、それと。」

 後ろを向いた所でフィアレディーが声を掛ける。

 「食事は無いですが、軽食が食堂に置いてあるので、食べるように。それでは。」

 そう言って粛々と、無駄など無く、機敏に動き、他の教員に指示を出し始めた。

 「さぁ、淑女先生のお言葉に甘えて、軽食を食べてもう寝ると良い。

 あの淑女の事だ。明日から通常授業に移行するだろう。」

 「そうさせて貰いましょう。」

 そう言って職員棟を後にする。



 尋問に掛かった時間、12分22秒。

 随分と短い尋問だった。


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