夜から昼へ


 こちらが質問を躱している丁度最中、同盟の連中は、後ろから迫る馬車の音を聞きつけて警戒を強めていた。

 二台の馬車が縦に並んで走る。

 先に走るのは三人組の馬車だった。

 ガタガタカタカタ音を立て、馬車は二台、暗闇の中を走り抜ける。


 「後ろからお客がやって来たにー!」

 後方馬車ので叫び声が聞こえる。

 「後方から車輪音と馬の足音!来たよ!ここからが正念場!気合い入れな!」

 「「応!」」

 前方の馬車が加速する。

 その10秒後、カチャガチャと音を立てながら同盟に迫る騎兵が見えて来た。

 その数、おそらく100騎程。

 その後ろから荷台付馬車…要は古来の戦車擬きが付いてくる。

 この数は騎兵程では無いが、20は居る。



 対する同盟側。

 前方馬車には三人組+金品+怪我人の猫背+長身痩身と中肉中背が乗り込んでいる。

 後方馬車にはそれ以外のメンバー。

 無論、配置を考えたのは学園に残った2人。




 学園内、段階としては未だ立て籠もり事件が立て籠もり事件だった時に遡る。

 「馬車は二台接収して下さい。

 逃走時には先頭車両を運搬用、後方車両を追手の迎撃用として割り振ります。

 本来はスピードの為に三台にしたいところですが、人数が分散するとそれはそれで逃走が困難になるので、よろしくお願いします。」

 学園内にあるものを物色しながらシェリー君がそう言った。

 「こちらとしては、戦闘は最小限に、逃げる事が出来れば勝ちですので、真っ向から戦わずに、時間稼ぎをメインに行って下さい。」

 「とは言っても、連中だって本気だろ?

 時間稼ぎなんてしていたらあっという間に追いつかれないか?

 下手に魔法や飛び道具を使われたらどうする気だ?」

 狙撃手がもっともな意見を述べる。

 こちらは数的にも能力的にも不利なのは確かな事実である。

 そんな連中がそれなりの荷物を持って逃げるのは至難。

 「そちらに関しては私が足止めします。

 ある程度時間を稼げば相手の移動手段は無効化出来る様にしておきます。

 おそらく、騎兵と馬車の二段編成で追跡されると思いますので……………。」







 「レン、例の準備は出来てるか?」

 荷台で後方に銃を構えながら傭兵のジャリスは声を掛けた。

 「バッチリッす。

 でも…これ、本当に使い物になるんすかね?」

 若い方の傭兵レンは不安の表情を浮かべながら手に持った物を見つめる。

 確かに、お嬢様謹製の品物としては本来考え辛いシロモノである事は事実。

 挙句にプロでも設備が整っていなければ事故も起き得る危険物だ。

 が、

 「他に方法は無い。腹括れ。

 他の連中は合図したら準備を。

 レン、良―く狙えよ。」

 そうこうしている内に騎兵達が距離を詰めて来る。

 手には剣や槍。杖を持った者も居る。

 距離にして100mを切っている。

 「えぇいままよ!

 喰らえッす!」

 そう言いながら手に持ったモノに魔法で点火し、投げつける。

 黒い、ボールの様な塊が後方の騎兵目掛けて投げつけられる。

 が、重量が相当あった様で、騎兵達にそれが命中する事は無く、失速して地面に落ちた。

 「今だ、全員目と耳を塞げ。」

 ジャリスがそう言いつつ、荷台に身を伏せて耳を塞ぐ。

 それを聞いた他の連中も倣って同様に伏せる……。





 カッ!

 ドン!





 真昼の太陽の如き光と爆音が後方で響き渡った。

 「光が止んだら馬車を引き付けて次を!」

 伏せながらジャリスが指示を出した。







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