ちょっとした逃走劇の幕開けを報せよう
と、いう訳で。
「こちらのお三方も同盟に加わる事になりました。」
シェリー君がこっそり皆を集めて同盟の追加メンバーを紹介していた。
狙撃手の方は未だ連中を丸め込んでいる様で、時間が少し必要らしい。
さて、増えた事だし、今の同盟のメンバーを紹介しようか。
・シェリー君(と私)
・5人の立て籠もり犯
・2人の傭兵
・夏休みに出会った3人組
・その他
今日1日で出来たにしては中々な大所帯と言えるのだろうさ。
「あんた達、この娘に助けられたんだって?」
「まぁ…にー。」「ぬぅ、その通り。」
「感謝、してますかい?」
「無論だなぁ!」「悪い事をしたと思っているからのー。」
「あんまり、この子をいじめんなよぉ。」
少し険悪な気がしないでも無いが、敢えて無視しよう!
別に、シェリー君を人質にした連中と3人組が仲たがいして険悪になって、あわよくば3人組が始末される事を期待して等いない!
まぁ、冗談はこの辺にしておいて、戦力分析と行こう。
3人組が入った事で性能の良い馬車とそれに乗り慣れた3人の騎手が増えた。
人数を分散させれば当初より重量的にも技巧的にも逃走の成功率を上げられた。
ただ、これでこの包囲網を力業で突破しようとすれば蜂の巣どころか蜜蝋の一片とて残らず皆死ぬだろう。
が、そこは私の…否、シェリー君の面目躍如。
今までそこら中をフラフラしていた訳では無い。
さぁ、これより始まるは逃げる弱者と追いかける強者。
飢えた肉食獣の如き強者に捕まれば弱者は絶命必死。
こちらは数も力も不利と来て、おまけに包囲状態は未だ健在。
絶望的と言われても誰もが否定しないこの状況、覆すは我が教え子シェリー=モリアーティー。
細工は流々、あとは仕上げを御覧じろ。
瞬き禁止、油断も禁物。
ここから先は命を賭けた大一番。それらは致命傷になるからそのつもりでいたまえ!
「では、彼女への尋問と証拠品の調査が終了した際には報告に参りますので、それまでお待ち下さい。」
二台の馬車に三頭身と立て籠もり犯、若兵と三人組をバラバラに載せ終え、狙撃手が代表者に挨拶をしていた。
優男は疑心を隠さず、言葉だけは丁寧だった。
「……解りました。
迅速な真相解明を祈っております。」
「それよりよォ、そこ増えた馬車と連中は何だァ!?」
血の気の多そうな鎧の大男がギロリと三人組を睨みつける。
三人組は臆せず大男の前に立つ。
「私達は丁度この辺を通りかかった商人さ。
事件が有ったと聞いて見てみれば、馬車が足りない人手が足りないと困ってたんでね。」
「困った人は放っておけない性分なんで声をかけさせて貰って、こうして運搬の手伝いをしていまさぁ。」
「困ってる奴を放っておくなんて商人の名が泣くってもんだからよぉ、ま、一応運賃は貰ったから、確実に仕事はさせてもらうぜぇ。」
「ハァン……ま、良いか。増える分にゃぁ構わねぇ。ほらよ、このデカい荷物も要り用なんだろ?」
そう言って男は近くにあった大きな木箱を肩に担いで馬車に放り込む。
重量は相当あり、男が馬車にそれを無造作に放り込むと、馬車の車輪が軋む音がした。
「あぁ、感謝します。後々必要なので、助かります。」
そう言って狙撃手は一礼をして馬車の荷台に、三人はそれに続いて馬車に乗り込むと…
パシンッ
パシィン
手綱が空気を鳴らすと、カタカタと二台の馬車が動き始めた。
カタカタ………カタカタ………カタカタ……カタカタカタカタカタカタ……………。
徐々に加速し、貴族連中の詰めている合間を縫って彼らの馬車は伏魔殿の外へと走っていく。
恨めしそうな、怒りに満ちた、憎悪を募らせた………負の感情を一緒くたにした視線達を背に、二台の馬車は敷地外へと完全に消えていった。
我々、シェリー君と私はそれを伏魔殿の中で見ていた。
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