悪魔の知恵で人を救う

 設備面の問題で血液型が解らないので、血液の輸血は出来ない。まぁそもそも、細菌が入り込む危険性が有るので血液型が解っても今回はやるにやれない。が、まぁ出血を止める位なら簡単に出来る。

 無難に確実に止血するならば、圧迫して止血するのが無難ではあるが、それをしようにも体の至る所が損傷しているのでこの状態での圧迫止血は出来ない。

 今回のケースならば、体に刺さった破片を抜き、千切れた血管から派手に出血する前に縫いつけるor焼いて塞ぐのが無難だろう。

 おあつらえ向きに針と特殊加工した蜘蛛の糸はソーイングセットに紛れ込ませてある。

 殺菌代わりの香草とアルコールの香水はある。

 更に便利な事に、魔法というのは個体や液体、気体燃料を手に持たずに火を起こせる。

 火で針を炙れば焼きゴテ代わりにピンポイントで肉や血管を焼き、最低限の火傷で傷を焼いて塞げる。

 さぁ、後は生身の血肉を前に物怖じせずに、か細い血管を出血する前に手早く仕上げてしまえるか否か。それだけが問題だ。

 「いきます。」

 「どうぞ。何か有れば手伝おう。」

 針を二本ピンセット代わりに縫い針で血管の縫合や傷口を焼いての止血なぞ馬鹿げていると思うだろう。

 まぁ、火傷のリスクや感染症リスク等、危険性は多数だ。

 が、残念な事に焼きゴテの方に関しては現実に存在していた治療法だ。最も、『荒』療治の類だがね。


 シュゥゥゥゥゥゥ!


 血肉の焼ける匂いがする。

 傷に刺さった破片を二本の針を使って取り除き、小さい傷は素早くアルコールで殺菌、後に速やかに縫合。

 比較的大きいものは傷に刺さった破片を取り、消毒しつつ破損した血管を最小限の火傷で済むように加熱した針で焼き、繋げて後に傷口自体を縫合。

 何故傷全部を焼かないかと言えば、傷全部を焼くと消耗が激しいからだ。


 全く、こんな邪道医療…………実体としては≠拷問・処刑の類を何だってシェリー君は憶えているのやら……………………………まぁ、教えたのは、当然私なのだがね!……………ハッハハハハハハハハハハハハ!

 まぁ、どんな事柄であろうと、知っておいて損は無い。知識はそれがどんなものであれ、重さは無く、消極的な意味合いにおいて無限に貯蔵出来るものだ。(因みに、この場合の『消極的』というのは、貯蔵量の上限が明確でない為に便宜上『無限』とした。といった意味だ。)

 例えば、シェリー君が万人を殺す方法を知っていたとして、それは今現在のシェリー君がそのまま直接使う事は無い。何せ、殺戮の反対語の様な性質だからね。

 私がその手の知識に関しては何故か詳しいので幾つも情報を教えてあげられるのだが………………残念…………とはならない。

 

 殺戮の手練手管を熟知しているという事は、殺戮のプロ…………では無い。

 『殺戮について知り尽くしている』人間は他にも居るだろう?そう、『殺戮を止める者』だ。

 知識には2つの側面が有り、使い方によってその形は変わる。

 解毒の為には分解したい毒を知っている必要が有る様に。

 病を治すために病について知り尽くしている必要が有る様に。

 殺戮を止めるには、殺戮について熟知した上でそれを許さず、止める為の手立てを考える必要が有る。

 私の持つ知識をシェリー君は幾つも得た。その中には殺戮に関する分野が幾つも入っていた。が、今まさに、それを使ってシェリー君は人命救助をしている。

 『人体の構造について』・『人体の急所の狙い方及び効率的な破壊方法』

 人体について理解して治癒の方法を導き出し、効率的破壊の起こっている部分を優先的に治癒する。

 本来の方法とは違うが、それでも実際に力に成っている。


 シュー シューシュー!

 そんな事を考えている内に、肉の焼ける音が止んだ。

 「終わりました。」

 猫背の出血はもう無かった。

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