未来の黒幕系悪役令嬢モリアーティーの異世界完全犯罪白書

教授が悲劇に出会ったら

　泣き言は無意味だ。

　泣き喚いたとして誰が優しい言葉を掛けてくれる？誰が君を助ける？何が解決する？

　答えは何者も君に優しい言葉は掛けない。誰も君を助けない。何も解決せず、どころか泣き言に比例して状況は悪化する。

　特にシェリー君の場合、理不尽な恨みをシェリー君に向け、その上で隙有らば陥れんとする連中の真っ只中にいる。泣き言を聞いた途端に全方位集中砲火、悲劇は確実だ。

　今は特に追撃を喰らわせるものは居ないが、それでも悲劇は無感情に、無慈悲に、風が吹く様に、雨が降る様に近付いてくる。

　死は泣き言を聞き届けず、歩んでくる。

　さぁ、問題だ。悲劇を壊したくば、どうすれば良いか？

　簡単だ。悲劇の要因を始末すれば良い。ただそれだけだ。

　ロミオとジュリエットの話は知ってるね？あの悲恋を例にしよう。

　この場合、悲劇の要因は社会システムや他にもあるだろうが、結果的には互いの家の仲の悪さが一番手っ取り早い要因だ。

　彼女らが結ばれる為には家同士が手を取り合うか、家との縁を切って駆け落ちするか、…………………はたまた、互いの家のいがみ合う口と争う手足、相手を憎む思考を生み出す頭を砕けば終わる。

あの物語に私の様な邪智謀略のプロフェッショナルが居たならば、そしてそのプロフェッショナルが若人達の味方であったならば、駆け落ちを助けるか、はたまた第三勢力として両家を3日で消し飛ばして誰も若人の仲に横槍を入れられなくする。

　第三勢力として両家が仲良くする道を探す？自分が共通のヴィランとして倒されて仲直り？馬鹿を言わないでくれたまえ。

　私がそんな菩薩に見えたか？

　話が反れたな。

　要は…だ。

　今、まさに目の前に倒れる男をどうにかしたければ冷酷に、無慈悲に、感情云々に振り回されずに冷酷に要因に対処すれば良い。たったそれだけだ。

　ギャーギャー喚き散らして何になる？

　血塗れの人間に止血処置をしないでどうする？

　こんな修羅場、修羅場とは言えない。

　これからシェリー＝モリアーティーに降り掛かるは土砂降りの如く降り積もる屍、気を抜けば溺れ死ぬ血の大海。それは確定だ。

　悲劇一つ、生きるか死ぬかの瀬戸際に喚き散らしていては死ぬだけだ。

　凄惨な場に在ってそのまま呑まれるならば感情のまま在れば良い。

　が、それを壊し、踏みにじり、仕掛けた者に報いを受けさせたいならば話は別だ。

　冷酷たれ。

　感情を抱け。しかしてそれは、己が手中に在って思いのままにしろ。

　人としてあるまじき冷酷、冷静を以て打破し、浅ましき輩を唾棄せよ。

　惨めに殺したくなければ鬼を抱け。

　なあに、この男は死ぬ迄には未だ2分22秒ある。

　私が教えた事を使えばこれしき、さ。

　さぁ立ち上がれ。呼吸と心拍を静めろ。

　やるべき事は１つ。これを考えた輩に思い通りにならない現実を目の当たりにしてやれ。

　死神程度を始末するくらい、人を一息で104ダース消すのに比べれば造作もない。

　「さぁ。シェリー君。如何する？」

　スー…………………………

　乱れた呼吸が止み、夜の闇の様に静かになった。

　「シェリー＝モリアーティー、参ります。」

　感情は見えず、震えはない。

　その目には死に体の男が映っていた。

　しかし、その目は冷酷に目の前の光景を見ていた。

　答えは出た。