死へのカウント


 死ぬ前の人の顔、所謂、『死人の相』というものが有る。

 人が死ぬ前の、死ぬ前だけ見せる顔や体の動き、呼吸音などの様子の事だ。

 まぁ厳密に言えば、そんなオカルティックなシロモノでは無く、ただ単に、死にかけて本当に死ぬ寸前の健康状態を物語った身体症状が目に見えて観察出来ているだけなのだがね。

 人の死に際は、まぁ皆同じ様な表情と顔色、体の動きを見せる。

 何を言いたいかと言えば、この男は今まさにその死人の相が見えている。まぁ、ほぼ死んでいる。放っておけば確実に4分22秒で絶命するという事だ。

 真っ当な言い方で目視での診断結果を纏めてみると、爆風による熱傷(火傷)。ただし、爆薬の量を製作者がしくじったらしく、致命的な熱傷では無い。

 爆発を至近距離で受けて即死になる様にはそもそも出来ていない。この量なら良くて熱傷。爆音での鼓膜破壊が限度だ。

 ただ、それでも爆薬の周囲…つまりゴーレムの材料たる石材や鉄の棘の破片が飛び散り、肉を抉る様に無数の破片が猫背の体に喰い込んでいた。

 ライフリング無し。空気抵抗の計算や狙いも無し。弾の大きさもバラバラ。ただし、無作為かつ無数に低殺傷力の有る弾をバラ撒く銃撃を喰らった訳だ。まぁそうなる。



 で。だ。



 「しっかりして下さい!」

 喉を潰した様な声で叫ぶ。勿論、『声の主が誰か?』と訊かれれば、『我らがシェリー=モリアーティー嬢だ。』と答えよう。

 猫背の血で全身真っ赤になりながら猫背を抱きかかえる。

 絶望して泣き喚いている。ただ、それだけだ。

 刻一刻と死が近付いていく。シェリー君は喚くだけ。

 私がそのシェリー君に言うのは一言だけだ。

 「君は彼を殺す気かね?」

 シェリー君が凍り付いたのが解る。

 恐ろしいものを見せつけられた様な表情を見せた。

 まぁ実際に恐ろしいものを見せつけられている訳で、未来確実に起こる事を先取りして見せつけているだけなのだがね。

 「泣き喚いて、抱きかかえて、で、この男が死んだらまた泣いて、で、冷たくなっていく亡骸を抱いて泣いて、お仕舞。

 私でない誰が考えたとしても、目に見えた結果だね。」

 「あぁ…あぁ、あ、あ、あ、あ、嗚呼ああああ………………あああああああああああああああAアアああああああアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!嗚呼ああ嗚呼aaAA!!!」

 頭を掻き毟る様に抱えて蹲っている。

 やれやれ、こうなるのは目に見えていた。

 さて……………背中を押すか。





 「少し口を閉ざしたまえ。五月蝿いよ?」

 シェリー君が凍り付いた。

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