爆発の酷さよ

 「皆さん、ッ……………………!」

 シェリー君が、足を止めた。

 視界に飛び込んできた光景は惨憺さんたんたるものだった。陰惨いんさんなものだった。

 と言っても、煙が立ち込め、視界が悪いお陰で全体像は掴めていない。 ただ、見えはしないが嫌な臭いがする。

 土埃と鉄が灼け、火薬が燃えた臭い。…………まぁ、私から言わせれば嗅ぎ慣れた匂い。『死の匂い』とでも表現すれば良いのかね?

 煙の切れ間から広間の中心が見える。そこには、ゴーレムと思しき石と鉄の残骸。

 私の予想していたゴーレムの予想通り、爆発物を中に詰め込んであった訳だ。

 それが機能停止と同時に炸裂して外殻部分を爆風で吹き飛ばして攻撃した。という所だ。

 それが証拠に、そこらに散らばる破片が広間から漏れて来た音から推定されるゴーレムの大きさにしては異様に少なく、転がっている石や鉄製の破片をよく見ると、卵の殻の様に丸く、そして内側に空洞が有ったかの様な痕跡が有る。

 爆風によって石と金属の棘を破裂させてそこら中にバラ撒いて殺傷力を上げようとした様だが、石部分が火薬と釣り合わない厚さだったのか、火薬の量が極端に少なかったのか、破片がバラバラになり切っていないし、皆体中が棘で串刺し………なんて事には成っていない。

 爆発の威力は然程強く無かった様だ。

 だからこそ……………………。

 「痛ッタイ………………なぁ……………。ゴホッゴホゴェ!」

 長身痩身が近くでうつぶせになって倒れていた。

 その様子は服が千切れてあちこち血が滲み、非常に痛々しいものであった。

 まぁ、見慣れた人間にとっては道に転がった石ころ並みでしか無いが、見慣れていない少女にとっては刺激的過ぎるものであろう。

 「ぬぅ………油断した、  無念。」

 壁にもたれかかった中肉中背が苦しそうに絞り出すように声を出した。

 「なんで、何でこんな事………こんな無茶を⁉」

 シェリー君が涙ぐんで駆け寄る。少し言葉に荒々しさが隠しきれていない。そこに有るのは激しい怒りと後悔、そして恐れだ。

 しかも、その感情の全ては、『怒り』・『後悔』・『恐れ』は相手に向いている物では無い。自分に向けているものだ。

 『自分が隙を見せなければこんな事には成らなかった。こうなったのは自分の責任だ!自分が隙を見せずに居ればこんな事には決してしなかった。』

 そう考えている。

 「シェリー嬢には休んでおいて貰いたかったんだがにー。」

 筋肉質が破裂した石の破片に埋もれる様になりながらそう言った。

 その心意気は良いのだが、結果的にこのザマでは話にならない。

 「うー………………これじゃぁ逆に、足引っ張ってしまったみたいだのー。」

 全くだ。身の程を知らずに、『良かれと思って………』的な思考で安易な行動を起こして……………。

 自分の善意が人にとって善意かどうかは解らない。

 それが善意か決めるのは、『善意を向けられた側の人間』だ。

 良かれと思って一秒でも長く、悲鳴を上げながら生き長らえさせた結果、『人間じゃない。』・『これをやったのは悪魔だ!』だの言われたのはよくある話だ。



 まぁ、その話は良いとして…………………だ。

 「ヒュゥ ヒュゥ ヒュゥ ヒュゥ」

 煙の向こう側で何かの気体が漏れる様な音が聞こえる。

 4人は無事とは言わないが、致命傷の有る者は居なかった。

 が、猫背の男は違った。

 「ネェ…………(ヒュー)」

 シェリー君の目に、血塗れの猫背の男が映った。

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