覚悟を嗤う
殺人の為に生まれたと言っても過言では無い三大発明の一つ。火薬。
火にくべれば熱と爆音、それに爆風を伴って激しく反応する物質。
建造物の破壊から大砲の発射から拳銃から都合の悪い証拠一つ残らない始末から一定の刺激を与えると自分がアリバイの有る時に狙った相手を始末出来る自動爆破or発火装置まで、何でもこなせる万能の凶器。
物騒なシロモノこの上ない。
あぁ、印刷技術や羅針盤で殺傷が出来ない。という訳ではない。
印刷技術ならば文で人を先導し、煽動して、家族や村単位のいざこざから都市や国家間での大惨事を引き起こせる。更に言えば、印刷や配布の証拠さえ残さず、巧く焚き付けられれば、証拠無しで国を幾つか地図の上から消すことが出来る。
羅針盤ならば、旅立つ前の連中が持つ羅針盤に細工をして難破させ、海上、目撃者の居ない食糧の奪い合い、笑えない命の奪い合いを引き起こすことも出来る。しかも、この時私にはこれ以上無いアリバイが出来、隠滅する証拠も無い。
まぁ、これは私だから出来る事であるから、おススメはしないさ。
まぁ、話を戻すと、要は、一番『人殺しの為の道具』を全面に押し出した『火薬』の香りがこの辺りに今まさに立ち込めている訳だ。
「気をしっかり持ちたまえ。否、覚悟したまえ。
この香りの漂う場所がお花畑だった試しはない。
地獄の風景ならば確実に見られるがね。約束しよう。」
「 解りました。」
固く握った拳と歯を食い縛るその姿は余りに苦痛に満ち、正視するに堪えないものだった。
悲しい事に、人間の覚悟なんてものは幾らしたところで意味が殆ど無いシロモノにしかならない。
何故か?決まっているだろう。基本的に、思考のベースライン(この場合は基準値というよりも、平均値や最頻値の事。)がお花畑でおめでたい、非論理的な人間の想像力や、それが創り出す最悪の心象風景程度(私から言わせれば限界まで花が咲いて花弁で圧死しそうなお花畑)、現実の風景に比べれば温いを通り越して凍えそうだ。
バッサリ言わせて貰おう。シェリー君の最悪の事態に対する覚悟は結局のところ水泡に帰する。
まぁ、シェリー君は元々、何処にでもある村の出身で、今とて、ただ貴族令嬢様の学園に居るだけの一般人。
火薬や血や凶器や毒物、その他諸々に馴れていられては逆にシェリー君が心配になる!
どんな大人かね?そんな血や火薬や凶器や毒物や完全犯罪や人体(主に破壊)に精通している挙句にそんな事をシェリー君に教える、およそ真っ当でない輩は!そんなのが実在したら見てみたいものだとも!
そんな事を考えている内に煙と熱気が立ち込める広間にシェリー君が到着した。
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